第五部 愛してるを歌にして

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 ルミはどうやらシェパーズの通信施設から俺のバックアップを行ってくれるらしく、準備のために病棟からは去っていった。  俺は作戦開始時刻まで待機していたが、内なるアドレナリンが先行して、かなり時の流れを長く感じてしまっていた。しかししばらく待っていると、病棟内にアナウンスが流れた。 「各員に通達。本日二十二時より、防衛省技術研究本部強襲作戦を開始します。動ける部隊員は各隊の隊長の指示に従い、順次出撃準備を行ってください」  俺はそのアナウンスを聞いて起き上がり、時刻を確認した。  二十一時半。もう準備をした方が良いだろう。  俺はベッドから降りて、ルミが残していった装備全般を身に着けていく。  最近は出撃していなかったから、久しぶりの感覚に、なんとなく故郷に戻って来たかのような感覚に陥る。  しかし、俺は今から故郷となる人物を取り戻しに行くのだ。  内心気合を入れて準備をしていると、病室のドアが開かれた。 「迎えに来たぞ少年。準備はできているか?」  もちろんその声の主はヴィヴィであり、カーテンを開いて顔を見せると、穏やかな表情を浮かべていた。 「はい。いつでも行けます」 「よし、いい返事だ。――作戦概要を伝える。我々シェパーズは総力をもって防衛省技術研究本部を攻撃、ライブラリの中枢に使われているアニェスを奪還する。部隊は地上砲火部隊と潜入部隊に分かれる。我々はヘリで目標上空へ展開、ヘリボーンで当該施設屋上へ降下、施設へ潜入して目標を奪還する。諜報班の報告では、既に政府の部隊が集結しつつあるようだ。気を抜くなよ、少年!」 「はい!」  返事をすると、ヴィヴィは満足げに頷いた。 「おおっとそれと。――少年、土産がある」  何かを思い出したような仕草を取ったヴィヴィは、腰から何かを外した。 「――これは」  ヴィヴィが差し出してきたのは、ホルスターに入った自動拳銃だった。それもガバメントと呼ばれる過去にアメリカで軍用拳銃として使われていた銃。しかし少し形が違うように思えるが―― 「これを持っていけ。グリズリーマグナムだ。五十口径の特別製徹甲弾を積んである。これならなんとかアンドロイドの装甲をぶち抜けるはずだ。装弾数は五発しかないから、慎重に使えよ」  ヴィヴィは俺の手の中にホルスターごとグリズリーマグナムを置くと、後ろに振り返った。 「私の愛銃だ。ヴィンテージでもう手に入らない。なくすなよ」 「――はい。ありがとうございます」  不安要素として、あの戦闘用アンドロイドと接敵した際に倒せるかどうかという疑問があった。  しかしこの銃を持っておけば、至近距離であれば倒せるかもしれない。ヴィヴィの愛銃ということだが、持っておいて損はないだろう。  ヴィヴィは病室の出入り口まで歩いていくと、こちらに振り返った。 「行こう、少年。必ず生きて帰るぞ」 「――はい。必ず」  グリズリーマグナムのホルスターを腰に掛けて、俺はヴィヴィの後に付いていった。
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