第五部 愛してるを歌にして

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「少年。そろそろ目的地上空に到着する。準備は良いか?」 「はい。大丈夫です」  そう返すと、ヴィヴィは笑顔を向けてくれた。 「信じているぞ少年。後は頼んだ」  ヘリが移動から旋回軌道に入り、目的地上空に到着したことを告げていた。 「よし、ドアを開ける! 風圧に吹き飛ばされるなよ!」  ヴィヴィの注意が飛び、彼女はヘリのドアを開け放った。途端、機内に圧倒的な風圧が流れ込んでくる。  俺は顔を庇いながら、とにかく降下地点に移動した。ヘリの縁に立って、俺は下を見下ろす。地上は戦闘の色を示していて。火線が多く飛び交っていた。 「行けるか、少年?」  気が付くと、ヴィヴィが隣に立っていた。彼女は心配そうにこちらを見つめている。 「はい。行けます!」 「よし、行ってこい! 少年!」  俺は決意を固めると、レクチャー通りに降下を開始する。ヘリから飛び降りると、また猛烈な風圧が全身を包み込んだ。気流に飲まれないように全身で身体を動かしながら、真下の目標地点を視野に入れる。 『大丈夫?! お兄ちゃん!』  ルミの声が耳孔内を反響する。 「ああ、問題ない。このまま降下する!」  身体を大の字に広げながら降下し、とにかく地上の施設を目指す。しかし通常のヘリボーンとは異なり、パラシュートを使ったエアボーン的側面もあるので、開傘は早期でなければならない。  俺は最高速度に達する前に、すぐさまパラシュートを展開する。全身を衝撃が包んで、しかしパラシュートの展開には成功したようだ。そのまま自由落下に任せて降下を行うが、やはり地上の戦闘は激しいらしい。防衛省の周りには多くの戦力が集結していて、シェパーズの地上部隊を牽制しているようだ。今は注意が地上に向いているから良いものの、いつ気付かれてもおかしくはない。  全身を緊張感が走り抜けるが、流石に勘付かれないはずだ。  俺が降下を行ったヘリはステルスペンキを塗っているらしく、滞空レーダーにはそもそも映らないらしい。そして積乱雲ギリギリで降下を行ったため、目視でヘリの存在も感知されていないはずだ。そのためヘリによる航空支援はできないが、隠密行動を取るなら、むしろこっちの方が都合が良い。  俺はパラシュートを操作しながら、技術研究本部の屋上に向けて身体を寄せた。 『目標まであと百メートル……八十、七十』  ルミのアシストを受けながら、俺は技術研究本部の真上に到着した。 『今だよ! 着地して!』  指示通り体重を下にかけて、足を屋上に接着させる。そのまま身体を倒すようにして着地し、俺はどうにか技術研究本部への着地に成功した。
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