第五部 愛してるを歌にして

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 俺は耳を塞いで、起爆のスイッチを押した。また轟音が響き渡って、大扉の破片らしきものが辺りに散らばる。電子ロックを施していたようだが、爆薬の前には無力というわけだ。  俺は軽く咳き込んで、大扉の方を見やる。どうやらしっかりと風穴を開けてくれたようで、円形の大穴が大扉には刻まれていた。 「行くか」 『ここから先は、諜報班のデータにもなかったよ。きっとアニェスさんがいるはず。絶対取り返してね!』  頷き返して、俺は静かに奥の部屋を目指して歩き出した。  大扉を抜けると、そこは大きなホールのようになっていた。円形の大部屋だったが、中央には何やら巨大な装置が置かれている。 「初めて見る機械だな」  ルミのライブ映像を見やると、彼女も俺の視覚情報から解析を行っているのか、画面を凝視していた。 『――見て! あの真ん中のやつ!』  ルミに言われた通り、装置の中心に視点を合わせる。少し離れていたので、コンタクトレンズの望遠機能が働き、自動でズームを行ってくれた。  そこには巨大な試験管のようなものが配置されていて、そこ中には、人間の脳みそと思しきパーツが収められていた。その脳みそはいくつものケーブルで繋がれて、そのケーブルは上方にある装置に吸い込まれているようだ。  間違いない、あれがアニェスの脳みそだ。  しかし、本当に脳みそだけになってしまったとは――  俺は歯を食いしばって、内なる獣性を抑えていた。 『お兄ちゃん――』  ルミの心配そうな声が響くが、俺は頭を振って意識を切り替えた。 「ロジィ。どう回収すれば良い?」  そう尋ねると、ルミは席から立ち上がって画面から消えた。恐らく管制室の他の面子にアニェスの本体を発見したことを伝えているのだろう。  少し待つと、ルミは何人かの管制官を連れて画面に帰ってきた。 『お兄ちゃん! 今アニェスさんを見つけたことを伝えたんだけど、専門の人が来るからちょっと待ってて! 無理矢理回収すると脳が死んじゃうかもしれないから』 「了解。なるべく早く頼むぞ」  まぁ何の知識もない人間が下手なことすると、それこそ本末転倒になりかねない。今は待機する方が優先だろう。  そして待機をしようと思って、アニェスの本体に向き直った時だった。
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