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俺はゆったりとした動作で、アニェスに近づいていく。彼女は驚いたように、身を縮こませて叫んだ。
「こ、来ないで!」
だけど俺はその言葉に関係なく、ゆっくりとアニェスに近づく。段々と距離が縮まっていくが、アニェスが逃げることはない。
そして俺はアニェスの目の前まで到達する。怯えるような表情を浮かべた彼女を、俺はしっかりと抱き締めた。
人間にしては冷たく、硬い手触り。しかしそれは当然で、彼女の身体は今アンドロイドであるのだ。だけど俺はそんなこと関係なく、アニェスを抱き締める。
「ありがとう。五年前の約束を覚えていてくれて。すごく嬉しかったよ。俺はこのために生きていたんだって、そう思えたんだ」
優しく語りかける。
そうだ。俺は君が生きていることを信じてここまで生きてきた。それがなかったら、きっとどこかで俺は道を違えていただろう。
彼女の頭を抱くと、アニェスは小さく嗚咽を漏らし始めた。
「いい、の? 私は、ユウの傍に、いて、良いの――?」
「もちろんだ。君が罪の意識を感じているのなら、俺もそれを一緒に背負うよ。君はもう一人じゃないんだ」
「――ユウ――!」
アニェスはそのまま泣き出して、俺の胸に顔をうずめた。そもそも彼女はアンドロイドなので、涙は出ていなかったが。
もう大丈夫。これで、全てがうまくいく。
そう思った時だった。
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