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『お兄ちゃ――』
ルミが言い切る前に視界が揺らいで、アンドロイドのアニェスがこちらに迫ってくる。自意識に気を取られていたから、俺はその対応に遅れてしまう。
全身を衝撃が包み込み、意識が明暗する。気が付くと俺は吹き飛ばされていて、数メートル後方の壁に背中をしこたま打ち付けたようだった。
地面に崩れ落ちて、俺は立ち上がろうとする。しかし衝撃のせいか身体は動こうとせず、そのまま地面にうつ伏せに倒れているままだった。
『早く起きて! 起き上がらないと、本当に死んじゃうよ! お兄ちゃん――!』
ルミが何事か叫んでいたが、もう意識が飛びかけていて殆ど頭に入ってこない。
薄らいだ意識の中で、彼女が迫ってきているのはわかっていた。
視界の中、アニェスが俺の取り落としたグリズリーマグナムを拾って、こちらに向かって来ている。
立ち上がらないと、殺されてしまう。
そんなことはわかっていた。だけどそんな思いとは裏腹に、身体は言うことを聞こうとはしない。
すると俺の目の前まで来たアニェスが足を止めて、グリズリーマグナムの銃口をこちらに向けてきた。
ここまでか。
俺は自分の死を悟って、静かに目を閉じた。
ごめんよ、アニェス。君を助け出すことができなかった。救い出すって誓ったのに、もう一度取り戻すって決めたのに。
俺は歯を食いしばって、涙を堪えた。
せめてもう一度だけ、アニェスの歌を聞きたかった――
俺は静かにその時を待っていたが、いつまで経っても発砲音が響き渡ることはなかった。
不思議に思って、俺は恐る恐る目を開く。
そしてようやく動くようになった首を動かしてアニェスの方を見ると、
そこには、泣きそうな表情をしたアニェスが立っていた。
俺は本能的に、彼女が自意識を取り戻したことを察した。
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