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エピローグ
桜の花びらが、並木道を包んでいた。
それは多く中空を舞っていて、時間の流れというものを感じさせる。
昔誰かが言っていた。桜の開花は長くても二週間程度であって、美しいものは永遠には続かないのだと。
そんな中、俺はゆっくりと歩いていた。
もう五年前になる。彼女と共にこの並木道を歩いていたのは。
それから色々あった。本当にたくさんのことがあって、死にかけたこともあったけれど、俺は今普通に生きている。
それはきっと彼女のお陰で、俺は少しだけ微笑んでしまう。
並木道を歩いていると、道の端にベンチを見つけた。少しだけ歩き疲れていた俺は、そこに腰掛ける。桜の花びらが絶え間なく舞っていて、俺は懐かしい気分になる。
平和を謳い、愛を歌った少女。
彼女はしかし、今もしっかり俺の隣にいてくれる。
「懐かしいな、アニェス。覚えているか、五年前のこと」
そう、隣にいる彼女に尋ねた。
返事がなかったので、俺は不思議に思って彼女の方を見る。
アニェスはしかし、しっかりとベンチに腰掛けていて、こちらに微笑み返していた。
「また来年も、見に来ような。――五年分の空白を、これからの埋めるんだ」
桃色の花びらが風に散って、俺の頬を撫でていく。
その風に乗って、俺とアニェスの未来がずっと先まで続くと良いなと、そう思えた。
終
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