やりかた。

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やりかた。

 年賀状を送り合うくらいの仲だった子供の頃の友達が、突然連絡をくれる。嬉しい反面、ちょっとだけ不安に思うのも間違いないことだろう。  (もえ)がメールをくれた時の私の心境も、まさにそんなところだった。  手越萌(てごしもえ)。小学校四年生の時の、私のクラスメート。特に仲良しだったグループのメンバーの一人である。当時クラスでは怖い話や怖い儀式が大流行していた。百物語やこっくりさん、肝試しからひとりかくれんぼ的なものまで。ひとしきり王道は試したし、他にも面白そうな都市伝説はネットでひっそり調べて挑戦していたように思う。  ついでに言うなら、男女ともに結構悪ガキの集団だったことも否定できない。潰れた廃病院に、こっそり肝試しという名目で忍び込んで大目玉を食らったなんてこともあった。今ではそれもいい思い出である。 ――きっと、懐かしくなって連絡くれただけだよね。  もう私も大学生だ。就職活動と被ってしまったこともあり、先日あった同窓会に顔を出すこともできなかった。そう考えると、姿が見えなかった自分を心配して彼女が連絡をくれるというのも分からない話ではない。久しぶりに会ってお茶しよう、という萌の提案を私は快諾し、隣町の駅前カフェで逢う約束をしたのだった。 「久しぶり、諒子(りょうこ)!」 「久しぶり……って、ええええ!?」  再会した萌を見て、私はひっくり返りそうになった。私が知っている小学校時代の彼女は、黒髪おかっぱのぽっちゃり系――というより、ちょっとおデブちゃん系の女の子だったのである。それでも愛嬌があり、いつも元気なムードメーカーであり、みんなに好かれるタイプの少女だったのは間違いない。そんな彼女がまさか、ここまで痩せてほっそりとした美人になっているなど、一体誰が想像しただろうか。  髪の毛も茶色く染めている。会っていない間に、いろいろと変化があったということらしい。なんだか、あの頃とずっと同じ、地味な眼鏡っ子のままの自分がなんだか恥ずかしくなってきてしまう。 「美人になったね、萌!ていうか、ほんとに萌?信じらんない」  私が言うと、彼女は苦笑して“この間の同窓会でも言われた”と返してきた。 「あたしだって大人になったんだから。諒子はちっとも変ってないね」 「何よ、それどーいう意味?」 「褒めてるんだってば。一発で諒子だってわかったもん。懐かしいなあ」  二人で店に入り、子供の頃のおこづかいではけして注文できなかった高いステーキを注文する。美人になった、と萌に言ったのは嘘ではなかった。しかし、彼女はただ痩せただけではないように思えたのである。痩せた、というよりやつれた、ような印象を受けてしまうのは月日のせいなのか、過去のイメージのせいなのか。なんとなく、彼女の顔が暗いように思えて仕方なかったのだ。  ひょっとしたら、何か悩み事があって自分に相談してきたのかもしれない。そう思ってしまうくらいには。 「もうそろそろ内定貰わないとまずいって思ってるんだけど、あたしこんなかんじで髪染めちゃったし、チャラく見えるらしくてさ。全然取って貰えないのよね」
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