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さっきまで私たちを朱く照らしていた太陽は、山の向こうにその姿をすっかり隠してしまった。辺りは薄暗く、すっかり話し込んでしまった友人の表情がかろうじて分かるくらいに。世に言う、『逢魔が刻』ってやつだ。周りは一面、田んぼと畑の田舎道。民家はあっても、とうにみな帰宅し、人通りもない。時々、家路を急ぐ車がぽつぽつと、私たちの脇を通り過ぎていくだけだ。急に怖くなった私は友人に別れを切り出した。
「えぇ!帰っちゃうの?家、よってく?なんなら夕ご飯食べて行ってもいいよ」
「うん、でも、この前お母さんに怒られちゃったから、帰るよ」
「そっかぁ。じゃあ、また明日。続きは学校でね」
「うん、またタナカくんの話、聞かせて」
タナカくんとは最近、友人と付き合い始めた、隣の中学に通う彼氏のことだ。
「じゃあ、またね」
「うん、またね。ばいばい」
私は友人に手を振り、家に向かって歩き出した。
周りは田んぼの一本道。等間隔に灯る薄暗い街灯。辺りは一段と暗さを増し、頼りなく光る街灯にさえ、すがりたくなるくらい寂しい。
ああ、またやっちゃった。早く、帰らないと。またお母さんに怒られちゃう。なんか出そうで怖いし、急ごう。少し小走り気味に歩く。
「なっちゃん!なつみ!」
突然名前を呼ばれて、ビクッとして振り返る。街灯の下にエプロン姿のお母さんが立っていた。
「やだ!なんだ、お母さん。びっくりしたよ」
「なによ、帰りが遅いから迎えに来たんじゃない」
「でも、お母さん、どっちからかきたの?」
笑みを浮かべ、手招きするお母さんに向かって駆け出した。次の瞬間、肩を捕まれた。
「きゃっ!」
掴まれた勢いで視界がぐらつく。
「あんた、何やってるの?どこ行くの?心配で迎えに来たのよ」
「えっ!でも……」
何が何だか分からなくて街灯の下を確認する。誰もいない。ただ、薄暗くチカチカと弱く点滅を繰り返す街灯が、まるでスポットライトの様に何もない空間をぼんやり照らしていた。
「ほらっ、早く行きましょう」
お母さんが、私の手を引いて歩き出した。その瞬間、低く冷たい息遣いが耳元でした。
「あぁーあ。あと、もう少しだったのに」
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