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”……ダメだ。どうしても離れない”
焦りに駆られた”タク”が後ろを振り返ると、敵は未だに彼の機体の七時方向にピッタリと食らいついたままだった。
高度、二万八千フィート(約八千五百メートル)。天候は晴れ。濃紺の空にところどころ綿のような積雲が浮かんでいた。”タク”の視界でそれらが目まぐるしく回転する。
強敵だった。持てる技術の全てを尽くして”タク”は機体を操るが、どうにも引き離せない。さらに、敵の機体も彼と全く同じ機種だった。そうなると完全に実力の勝負になる。今のところほぼ互角だ、と彼は感じていた。だからなかなか決着がつかない。
だけど、たぶんヤツもかなり焦っている。ヤツの動きからそれを感じる。”タク”は自分に言い聞かせる。焦りに耐えられなくなった方が負けだ。それに、そろそろ……
「ノブ、目標捕捉」
”……来た!”
待ちに待った、彼のパートナーである”ノブ”からの無線だった。そう。彼はおとり役であり、攻撃の本命は彼の僚機の”ノブ”なのだ。
「待ちかねたぜ、”ノブ”。撃墜しろ」
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