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「主のもの、、、か。
俺がもっと若いうちに朱雀院に見初められていたら、伴侶として日毎夜毎の相手をさせられてただろうからな」
「ふっ、、、。
させられただと?
三十過ぎの男がゴッドフィーダーの目に止まっただけでも俺に言わせれば奇跡だ、感謝しろ」
愷流がヴァンパイアになるべく選ばれたのは半世紀前のことだった。
当時三十そこそこでトレーダーとして成功しており、同性愛者で結婚もせず、時を経ても揺るぐことのない完全な容姿の持ち主であったのがその理由だろう。
「まぁな。
けど、、、これでもヴァンパイア化される前までの俺は蕩かされるかってくらい朱雀院に溺愛されてたんだぞ。
ま、、、一族を維持する頭数の一人になった後は声もかからなくなったけどな」
当時との落差を改めて思うのか、愷流は大きく息をついて見せた。
「それがゴッドフィーダーたる朱雀院の本来の目的だ。
仲間入りさせた後はせめて自由に、という配慮でもある」
「永遠を生きる上で便利な年頃だってのはわかったよ。
誰を口説くにしても若すぎて舐められることもなけりゃ、ジジイのように敬遠されることもない」
「自由が過ぎて喰欲旺盛なのはいいが、たとえ一夜の遊びでも『掟』だけは忘れるなよ」
「はいはい。
破れば即刻『塵』に処す。
朱雀院からもお前の口からも何度聞いたことか」
「何度でも言う。
それほど厳格に守るべき事柄だからな。
こればかりはいくらお前でも朱雀院の擁護は受けられず、この俺によって無にされると心してくれ。
例外はない」
時を経た今は朱雀院から息子のごとく扱われているようだが、織呀自身はこの男をそれ以上の何物だとも思ったことはなく、愷流にしてもこうして織呀を構いはするが心底では『いずれ自分は織呀の傘下に立つ身』であるとの弁えを持っていた。
朱雀院に万一のことがあれば互いの立場は大きく変わる。
母親の腹の中でシヴァールの血を遺伝された先天的ヴァンパイアの織呀はいずれ最上位のゴッドフィーダーの座を約束されており、そうなると愷流は織呀に忠誠を誓うことだけを条件に永遠の生を受ける者となるからだ。
未だ何の称号も与えられていない二人であったが、一族の掟を守らせる側と守る側、その違いだけはそれぞれが意識の中にはっきりと刻んでいた。
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