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二人きりで話す時ですら朱雀院への忠義を口にする織呀に再び車を加速させた愷流が静かに笑う。
「朱雀院は安泰だな、律儀な男を跡継ぎに据えて。
にしても飢えはあるだろ、さすがに」
「ない」
「は、、、志高きは結構なことだが、時には妥協して喰わないと次期フィーダーの色艶に障るぞ」
「俺が人の血を得るとすれば仲間を増やす目的でしかなく、その特権は現ゴッドフィーダーにのみ許されている。
朱雀院は今も健在であり、、、」
「あーはいはい、お堅いお前にとって捕喰はセックスと同じだったな。
愛のない遊びはしないってことで」
「しないのではなく、必要がない」
「そう言えば、、、」
朱雀院の門をくぐり、片手でハンドルを大きく回す愷流が口元にもう片方の指先をあてながら呟いた。
「お前が最後に捕喰したのはいつだったのかこれまで訊いたことがなかったな。
、、、まさか童貞か?」
形ばかりは現代風に造られた豪邸が見える距離になって二人の眼にはようやくブルーグレーの光が宿る。
「心配するな。30年も経ってない」
「なんだ、ごく最近じゃないか。
ふ、、、お前が手を出すくらいなら余程賢く
また見目麗しき子だったんだろうな。
、、、何故伴侶にしなかった?」
「伴侶も何もない。
たまたま自死を決めた男の横に居合わせただけのことだ。
どこかの研究員とあって知性の香りは高かったが服毒しても尚死にきれず、苦しみに耐えかね『殺してくれ』と訴えていた。
理由としては、、、情けをかけた、ということになる」
「研究員ねぇ、、、。
容姿はともかく、知性高き香りならば嫌いではないだろ?
血を交えなければヴァンパイア化させることもない。
毒だけ抜いて助けてやればよかったじゃないか」
「死を望む者に保証なき未来を強要するのは無粋というものだ。
それにそいつの血は知性の香りのみならず自責と後悔の後味も強くあった。
死を望んだのは余程の理由あってのことだろう」
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