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時刻は午後11時より少し前 ───
二人が乗った車は朱雀院邸のエントランスに到着した。
両開きにされたドア正面にはハザードを点滅させた車が先に停まっており、そこから忙しなく降り立つ少年を認め、二人は視線を合わせる。
「さっきの奴だ」
愷流が彼らの車両の後に車を付けると、白い手袋を着けた運転手が車外に立ち、館から出迎えた者へと少年を引き継いでいた。
黒いコートを身に着け、ファーの付いた手袋を胸のあたりで擦り合わせながら珍しそうに辺りを眺めている少年は、身体つきからして十代と思われたが、それにしても運転手や出迎えた者らへの態度には落ち着きがなく、傅かれることに不慣れであることが明らかだった。
「顔ばかりは妖しい美少年に見えたが、まだガキだったのか」
愷流は好奇心を削がれたようにシートに背を預けた。
「ということは夜会の招待客ではなさそうだな」
少年はいくらか距離をおいて後ろに縦列させた車に気付くと『あ』と口を丸く開けて足早に近づいてきた。
「こっちへ来るぞ」
「降りよう」
しかし二人が車から降り立つのを待たず、
「さっきはごめんなさい。
約束の時間に遅れちゃ、、、遅れてたので、、、遅れ、、ていたもの、ですから」
何度か言葉遣いを直しながら大きな声で言い、その後恥ずかしそうに目を泳がせた。
「お前の名は」
運転席から回ってきた愷流が訊く。
「琉柯と言います」
冷えた外気に触れて白くなる息は、
琉柯と名乗った少年が人間であるという証拠。
織呀と愷流が間近で顔を見れば吐く息など確認せずとも人間かヴァンパイアかすぐにわかるのだが、人間側からすればどんなに気温が低くても吐息が白くならない者はヴァンパイアだという目安になるのは知られたところだ。
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