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プルムの中央に寝転んだ有栖は、腹に乗せた灰粉を軽く握り取っては周囲に咲くサフランの花に撒いた。
陽光そのものに似せた灯の下で、銀色に光る骨の散り散りが、有栖の白い指の隙間から サラサラといくらか零れ落ち、密集する花びらを揺らした。
あの夜からおよそ半世紀 ───
長年有栖の命を支え続けたクロエが、その生涯に終わりを告げた。
まるでルカの逝去を待っていたかのように、館からの訃報を受けた翌日、彼自身も正装に身を包み、ベッドの上で祈るように手を組んだまま事切れていたのだ。
死する直前までオルガの精によって若々しさを保ち、有栖にエネルギーを移し続けた彼の骨は、灰となった今も輝きを失わず、落ちた先の花々に光を添えている。
今日より数年前、
病に倒れ逝った御門宣は最後の最後まで有栖に変わらない愛を注ぎ、晩年の全てをヴァンパイアたちとクロエとの栄華で飾り、突然幕を閉じた。
シヴァール一族に莫大な資産を遺して。
ルカが老年と言うには若くして死を迎えたのは、やはり人間の生理に反した状態での無理が祟ったのだろう。
有栖が館に戻されてからのルカに会うことは一度も無かったが、時々遺構まで様子を伺いにやって来るカイルによると、オルガを父のように慕い、今際の際まで心穏やかに過したという。
振り返れば ───
半世紀などあっという間だった。
復活、輪廻、そして無。
人はそれぞれ死より後の自分を探るが、この世に生きている時でさえ何度も蘇り、生まれ変わり、虚無を得ている。
一瞬前の自分などどこにもおらず、有栖はいつかオルガが、
『生きるのに飽きた、死にたい
などという思考は成り立たない』
と言ったその意味を理解し一人微笑んだ。
人間の遺灰を握って掲げた手を見れば今も瑞々しく水分を含み輝いている。
─ もう70年は生きてるというのに、、、
これから更に気が遠くなるほどの年月を生きるヴァンパイア。
自分を含めた異なる世界の者たちが
剣の一突きで塵と化すのも道理である。
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