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いつの間にか眠っていたようで、
側にいるオルガと、彼が連れてきた気配に、そっと目を開けた有栖は外が夜であると覚った。
「そろそろ起きたらどうだ、有栖」
「オルガ」
夕暮れの、赤を含んだ薄暗い灯りに変わったプルム。
淡紫で満ちた花の上に横たわる顔は以前と少しも変わらない精悍さで、目には相変わらずの強い意志が湛えられていた。
そこからの視線は愛しさを隠すことなく、また惜しむこともなく有栖に注がれ、やがてしっとりとした柔らかな手が遺灰を握ったままであることに気づくと、長い指をそこに重ねて解いた。
「待たせたか」
詫びの韻など微微とも含まずに問いかけるあたり、同情という言葉を持たないオルガの潔い精神性が伺える。
「待ちました。
過ぎた時はあっと言う間だったのに、
オルガ、貴方を待ち望んだ年月は千年にも万年にも感じた」
触れ合う手と手、引き寄せられた先の広く深い懐に有栖は覚醒し、顔を埋めた。
深紅の芯を秘め抱くサフランの花のように、オルガの身体から欲望の主張が現れる。
冷たい肌の下を疾走る熱い血潮
精の交わりに身を重ねた日々を蘇らせ、
二人のヴァンパイアは時を止めた。
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この地球のどこかでは、信じがたい出来事が、信じがたい者らによって常に成されているのだろう ───
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