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風は吹きすさび、その中で雷と雨の音だけが明瞭に響いていた。
一同は息を吹き返しても尚泣くことなく、
背にはまるでサフランの花びらのような痣を負い、嗤うでも、また啼くでもない表情でフッと開けた乳児の口に前歯が並んでいるのを見つけ、固唾を飲んだ。
「せ、先生。
は、、、歯が。
産まれたての お子に歯、、、が」
それだけでも充分衝撃ではあったが、その子供の口に長く尖った犬歯を認めた時、老年の医師は唇を震わせて呟いた。
「、、、ヴァンパイアだ。
クラウス婦人は妊娠中にヴァンパイアを見てしまったのだ」
母体の亡骸、その首筋には小さくとも深い2つの咬傷が見てとれた。
「では、、、まさかこの子は」
「クラウス家には既に六人のお子がいる。
古来よりの言い伝えが本当ならば先天的ヴァンパイアが生まれる条件が揃ってしまったことになる」
「先天的ヴァンパイアが生まれる条件?」
「そうだ。
まずは第七子であること。
妊娠中、墓場でヴァンパイアに遭遇し、、、いや、もしかすると奴らはこの子がクラウス家の第七子であることを既に知っていて、待ち伏せたのかも知れん」
「お子がヴァンパイアである証拠は?」
「被膜で覆われたまま産まれ、痣を持ち、出生時には歯が生え揃っている」
「そんな恐ろしいことが、、、っ」
下女たちは口を押さえて絶句し、その中の一人だけが後退りながら首を振った。
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