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外気は血の気のない身体に馴染むほど澄み、冷え冷えとしていた。
陽は沈んでも灯が消えることのない大都市を出て半時間も経つと街路灯は途切れ、車は緩やかな斜面を伴い奥深い森へと入る。
更に十分も進めば、城とも館ともとれる黒い石造りの建物を中心にして高い石塀がぐるりと広大な敷地を囲んでいた。
もう何年、いや何十年この道を往復した事だろう。
少し前までは、
── といっても軽く百年は経つのだが ──
二人は事あらば馬の尻を打って夜道を疾走り、また時には迎えの馬車に揺られていたものだ。
今、同胞の愷流は鞭の代わりに|高級車のハンドルを操り、
赴きある石畳の、しかし最新技術によって滑らかに舗装された一車線へと入ってゆく。
ここまで来ると車窓から覗く林道脇の奥はただの闇で、人であれば ようやく月夜空の下に広がる一本道を走っていることを知るくらいなのだが、ヴァンパイアである織呀と愷流の眼は、それぞれが意識を向けさえすれば昼間と変わらずに木々の節々や枝葉の先まではっきりと認めることができた。
夜会の客たちはとうに館に到着している時刻。
目的を別として内密に呼び出された織呀と愷流以外、ここを通る者はないはずだった。
が、
今夜に限っては少し様子が違っていた ──
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