Saffron ─ サフラン ─

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直近のカーブを過ぎてから、ヘッドライトを点灯させず追ってくる一台の車があった。 「、、、尾行()けられてるか?」 愷流(かいる)がバックミラー越しに認めたそれは結構な大型車で、数秒の間に大きく距離を詰めてきている。 ライトを消した車両は完全に闇と同化し、人間であれば気づきもしないだろうが、先を行く二人の目には明らかだった。 「尾行ならこれほどあからさまではないはず。 愷流(かいる)、スピードを落としてやり過ごせ」 進む路の行く先には朱雀院の館しかなく、 であれば仲間、そして着く所は当然同じである。 「堂々車のライトを消して走るあたり カトル(最下級のヴァンパイア)か。 にしてもここは一般人も うっかり立ち入りかねない公道だぞ、気ぃ抜き過ぎだろ」 愷流(かいる)は舌打ちと共に速度を落とし、車道から森の中へ車を半分突っ込む形で寄せた。 月の光に艶を放ちつつ迫る黒塗りのボディは速度を落とすことなく瞬く間に二人の車を越えて行く。 追い抜きざまに一瞬見えた後部座席からは、 明らかにこちらを認めるような若く妖艶な顔が見受けられたが、織呀(おるが)愷流(かいる)のどちらもが覚えのない人物だった。 「運転手はカトルに違いないようだが、、、 後ろにいた奴。お前は どう見た?」 愷流(かいる)は『後部座席に座っていた者がヴァンパイア(仲間)に見えたか』と訊いている。 「人だ」 「だよな。しかもなかなかの美少年」 「だが見たことのない顔だった」 ヴァンパイアならば言うまでもなく、選ばれて招待を受けた人間だとしても賢さと美しさは第一の条件であったから当然である。 「迎えの車からして、朱雀院のお手つきか」 「ならば我々が美醜を語るのは慎むとしよう」 現ゴッドフィーダーである朱雀院が選ぶ男女に、織呀(おるが)はたとえ社交上のマナーであっても関心を持つことを良しとしなかった。 もちろんそれは主への礼儀であるのだが、 個人的信条としても精神から滲み出る正賓さが無ければ興味の対象にはならない。
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