夕立の下で始まる一歩

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 細いただの女子生徒が本当に悪い男子学生達に真っ向から反撃できるわけがない。小賢しい女の集団だってかなり手強い。雨歌アマネにできるのは雨を喚ぶことだけ。彼がアマネに対してただの変わり者のクラスメイトという認識程度だとしてもアマネはできることをしたかった。  外で誰かが悪戯しているのを見かければ土砂降りを、喧嘩を仕掛ける計画を聞けば雨を降らせる。学校内だって先にわかればそこの窓を全開して先に来る奴らが多少なりとも雨に濡れる状況を作っておく。呼人が雨に濡れていなければ問題の時間に外にいなかったと言えるし、運が良ければ相手が雨から逃げてエンカウント回避もできたりするし、アマネにできる精一杯の物証を示し続けているのだ。  そんな雨を喚ぶアマネにも弱点がある。アマネは夕立だけはコントロールできない。何故なら雷が怖いから。100%じゃないにしても夕立には雷が付いてくることが多い。傘を差していたら雷が落ちてきそうだし、何より音も光も怖い。  「ううう、怖いよう」  アマネは裏玄関の軒下で頭を抱えて半べそになっていた。ちょっとしたプライドから友人の前で醜態をさらしたくないと、忘れ物を装って戻ったのだが正面玄関に辿り着く前に夕立が本格化しぎりぎり滑り込んだ裏玄関の軒先で途方に暮れているという次第。真っ暗な空。雨で霞む視界。恐ろしいくらいの光と音。あ、2秒。近いじゃん! うっかり光ってからの数を数えてしまい、それが少なかったことで恐怖が増す。バサッと何かが頭の上から落ちてきて思わず悲鳴をあげたアマネの耳にくすっと笑う低い声。大きな厚手の布と思えたものはパーカーだった。小柄な体の半分以上を覆っている大きめのモスグリーンのパーカーの隙間から声のした方を見てアマネは目を丸くした。呼人が面白そうに見下ろしていた。頬が一気に赤くなるのを感じパーカーが脱げないように掴み、件のパーカーが呼人の物と気付き更に赤くなる。
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