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「お前、雨女のくせに雷が怖いのかよ?」
「雨と雷は違うもん! よ、呼人も雨宿り?」
「雷見物。俺は雷が好きだから」
「な、なんで……?」
「…………お前になら言ってもバカにしなそうだな。俺は雷の弟子になりたいんだ。人間界からおさらばしたっていいくらい」
信じてもらえたうれしさと、この世界から消えてもいいと同義の言葉に痛む胸を押さえて見上げた呼人は愛しそうに雷光が光る空を見ていた。嫌だ、私を見てよ。隣にいるのに。泣きそうな思いを堪えてアマネは口を開いた。
「どうして……どうしてそんなに雷が好き、なの?」
「俺、転校する前までいじめられてたんだ。意外だろ。さらには男につけ狙われていて、まぁ、かなり絶体絶命のピンチになった」
「!?」
「あぁ、そんな顔するなよ。無事だったから。雷が助けてくれた。ヤられる寸前、男の背後にあった木に雷が落ちて、そんな近い落雷だったのに俺は無傷で、男だけが跳ね飛ばされて火傷負って……駆けつけたばーさんが雷の愛し子だから助かった、良かったって。ばーさんは色んな迷信とか、神様を大事にする人で俺も親より信じている人の言葉だったから素直に雷に感謝して、ずっと大好きになった。髪を染めたのも金髪の方が雷に好かれそうだなんて短絡的だよな。結果それからいじめられることはなくなった。めでたし、めでたし」
アマネは思わず呼人の学生服の裾を掴んでいた。そんな悲しい顔で、諦めたような顔をしてめでたしなんて言わないで。
「なんで泣きそうなんだよ……」
ふいっと呼人が顔をそむけた。それでも離れない手から何かが伝わったのか押し殺したような声がした。
「お前、なんでいつも俺を庇うんだよ……? 内申点のためか?」
「!」
バシンッと大きな音がした。アマネが勢いよく立ち上がって呼人の頬を叩いたのだ。ボロボロと涙が零れるのも気にせずにあっけに取られている呼人にパーカーを投げ付ける。
「先に助けてくれたのは呼人なのに! 雨女っていじめられている私に普通に接してくれて! 世の中助け合いって1年のくせに渋いこと言って態度変えないでいてくれた! それなのになんで私が助けようとすることは内申点なの!? 何でいつも一方通行なの! 私ならバカにしないと思ってくれたなら、なんでそこを疑うの!? バカッ、呼人のバカ‼」
一方的にまくし立て、勢い任せでアマネはその場から駆け去った。雨に濡れようが、雷鳴が聴こえようがどうでも良かった。ただ、ただ胸が痛かったから。土砂降りの雨に隠れるように声を張り上げて泣きながらアマネは気が済むまで泣いた。気が済むまで雨を喚んだ。
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