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呼人が来なかった体育を終え、アマネは教室に戻った。教室は蒸し暑く、体を動かしたことでさらに身に感じる不快度が増している。不機嫌にとどめを刺したのは消えていた呼人の荷物だ。呼人が外に出れば雨でわかると思ったのにそれを邪魔した存在にはもう気付いている。本当に前よりももっと雷が嫌いだ。恐怖よりも腹立たしい。戻ってきた教師がメモに気付いて呆れたように笑った。
「遊馬は律儀だな。無断早退の詫びを書いていったぞ」
クラスメイトもそれを聞いて笑ったり、意外だと囁き合ったり。アマネはそれを見てまた苛立つ。呼人はいつだって真面目で、律儀で、悪いことなんてしない。少しは伝わりだしたけど全然足りない。
「アマネ、一緒に帰るー?」
「ごめん、ちょっと寄るところあるから」
「わかった、また明日ね」
友達の誘いを不自然じゃないように気を付けて断り、窓の外を見て思案する。全力疾走したら夕立より先に家に帰れるだろうか。今日は先生方の研修があるという理由で全生徒速やかに下校というお達しが出ている。そう信じるしか最早アマネには選択肢はないのだけど。
「?」
外靴を履こうとしてはらりと紙が舞った。四つ折りされたメモ。新手の嫌がらせだったらどうしようと思いながら紙片を開いて目を見開く。
『酷いこと言った。ごめん。ずっと、本当のことを言い続けてくれてありがとう。 遊馬 呼人』
まるで、遺書のようだ。アマネは慌ただしく外靴に足を突っ込み、上靴を乱暴に放り込んで外に出てびくりと身を竦めた。雷鳴が近い、立ち込め始めた黒雲がたまに光っている。怖い。怖いけど今すぐ呼人に会わなければいけない。じゃないと一生後悔する。雷は怖いけれど雨は味方のはず。そうアマネは自分に言い聞かせて駆けだした。
程なく雨が降り出した。あっという間に雨脚が強くなっていく。額に張り付く前髪を払い、目に入る雨を拭いながら、時折雷鳴に身を竦ませながらひたすら足を前に。雨が教えてくれているのか確信があった。こっちに来れば呼人に会える。息が切れて足を止めて、息を整えながら雨に霞む周囲を見渡す。学校から歩いて30分くらいの場所まで来ていた。雷が落ちそうな場所にいるなら大きな御神木がある神社が可能性高いと踏んでアマネは石段を駆けあがった。登り切ってガクガク震える膝を押さえて荒い息をマシにしてアマネはキッと御神木がある方を睨みつける。今までで一番大きい音がして視界が真っ白になった。雨に濡れた石畳は鏡のように強く雷光を反射する。ずずんと振動が足の裏を伝う。負けるもんか。
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