夕立の下で始まる一歩

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 雨歌(あまうた)アマネは小学校1年生からずっとたった一人を想っている。雨を()ぶ特殊能力を持っている以外はごく普通の可愛いよりの女子。ふわふわした少し茶色ぽい髪を元気なポニーテールに、チャームポイントは自他認めるきらきらした大きな瞳。只今、高校2年生。想い人も同じ歳。  「あ……」  校舎の3階から階下の渡り廊下を歩く背の高い目つきの悪い男子学生が見えてアマネは目で追った。すれ違う女子学生が慌てて距離を取っている。彼は怖くなんかないのに。アマネはいつも頬を膨らませる。  さらっとした金色に染めた髪。深い黒目、色白なのに不健康には見えないきれいな肌。実際ケンカも強いことは知っている。遊馬 呼人(あすま よびと)、噂だけが独り歩きして周囲に恐れられ、教師からも疑われることの多い一匹狼。ああ、今日も格好良いなぁ……、アマネはうっとりと視界から消えるまで見つめ、姿が消えてからは追想に浸る。  忘れもしない小学1年生。アマネは雨女と保育園の頃からいじめられていて小学校にあがるといっても早々校区なんて離れない地元の狭さ。そこに転校してきたのが呼人だった。彼はその時から金髪だった。  周りが何と言おうとアマネが使うものを忘れたり、あるいは隠されたりして困っていると一緒に見せてくれたり、貸してくれたりした。世の中助け合い。当たり前と言ったら当たり前のことが通じない閉鎖された集団の中で「アホらし」と周囲を一蹴してくれた時からアマネの想いは揺るがなくなった。さすがに中学の後半くらいからは雨女をネタに騒がれることは減っていき、今ではちゃんと普通に友達もいてそれなりに日々を送っているとはいえ呼人がアマネにとってヒーローなのは変わらない。  髪を染めているのは不良の証拠といつの時代と言いたくなるような先入観は未だに根強く、しかも目つきが悪いのとぶっきらぼうさが拍車をかける。ずっと見ているアマネに言わせれば学校をさぼったことも、自分からケンカを仕掛けたこともない。しいて言うなら要領が悪いし、間も悪いのが原因だろうか。  例えば、呼び出されて5対1で返り討ちにしたところで負けた方が騒いで呼人がぼこぼこにしたことになる。悪戯された花壇の花を直そうとしていたら呼人がやったことにされて、呼人もいい加減大人が聞く耳を持たないと知っているから黙り込み、勝手に罪が確定になるなど。もちろん、アマネも何度も事実は違うと声をあげた。でも、哀しいかな。数の多さは何を言っても真実を捻じ曲げる。アマネが呼人に脅されていると思われたり、悪い人を信じる良い子として内申点を稼ごうとしていると思われたり。どうやっても呼人が悪く言われるのだ。  だから、アマネは雨を()ぶ。
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