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3.銀行強盗
あまり眠れぬまま朝を迎えた僕は、雅美が眠っている間にホテルの周りを散歩することにした。頭が冴えてくると、明日はもうチェックアウトの日だということに気付く。二人の記念の品などを購入したいが、防犯のため現金は極力持ち歩かないようにしていたので銀行で出金しなければならない。
仕方なく近くのATMを探す。しかし店舗の方が近い場所にあることがわかったので、開店に合わせて店舗へ行くことにした。
出金しようとキャッシュコーナーへ行ったが、窓口へお越しくださいという表示が出ている。
ATMの故障かな?
仕方がないので窓口へ行き、キャッシュカードしかないことを伝えたのだが、にこやかに応対していた行員の頭が突然後ろにのけぞり、倒れこんだまま動かなくなる。
「抵抗するな!」
「俺たちに従え!」
振り向くと、目出し帽を被った三人組がそれぞれに銃を持ち店舗に居た客を奥へと押し込んでいく。
銀行強盗だ!
こういう時は目立ってはいけないと何かで読んだ。僕は大人しく従い奥へと行き、跪いて頭を下げた。
「死にたくなければこれに金を詰めろ! 早くしろ!」
強盗達は行員を急かして金を何かに入れさせているようだ。
その時
ジリリリリリリリリリリリ
けたたましく警報機が鳴った。
「この野郎! 誰だ! ボタン押したのは!」
怒り狂った男の叫び声の後、先程の行員が倒れる前に聞いたあの音が
一発・二発
そして倒れる音、うめき声。
僕は、いや、多分僕らは、目立たぬよう騒がぬよう頭を床に付けて小さくなっていた。
と、視界に小さな光が映り込んだ。頭を床に付けた僕の視界に入る、僕の少し斜め後ろに居た人物から発せられた光。恐る恐るそちらに目線をやると、スマートフォンの画面に、三人の男性の画像が表示されている。
一人は丸顔で髪が短く白髪交じり、一人はエラが張った色黒で長髪、一人は目つきの鋭い面長でパーマをかけている。
そしてそれを見ている女性、そう、あの女性は、
……音もなく笑っていた……
彼女は何を見ているんだ?
何に笑っているんだ?
「お前ら、抵抗したら即撃ち殺してやるからな。もう何人殺したって同じなんだからよ!」
声から焦りがにじみ出ている。
「そう、何人殺しても同じなんだよな」
誰かが言った後、また銃声が響いた。
「お前、何やってんだ!」
誰かの焦った声が聞こえる。
「仲間殺してどうすんだよ!」
「ああ? 仲間殺して、お前も殺すんだよ」
そしてまた銃声。その後銃声よりも大きな笑い声が続いた。
……狂っている……
きっとこの場にいる全員がそう思ったに違いない。
ふと考える。彼女のスマートフォンの画像には三人の男が表示されていた。
もしも、もしもスマートフォンに表示されていた三人がこの強盗なら、もう一人も……
「お前ら、動くんじゃねえぞ!」
強盗は笑いながらそう言った。そしてその後、自動ドアが開く音が聞こえた。しかし、顔を上げる者は誰もいない。僕達は恐怖に震えることしかできなかった。
たった一人を除いては。
強盗は外へ出たようだった。外で何かを大声で叫び、その後銃声が何発か聞こえた。頭がボーッとして何も考えられなくなっていたが、サイレンが鳴り響き、何人かの足音が近づいてきて
「警察です。もう大丈夫ですよ! お怪我はないですか?」
そんなような声を聞いた後、僕は完全に気を失ってしまった。
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