第5章 高校野球の中心は私たちって、わからせてあげる!

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 和波がボールをリリースするより早く、武志は打つための準備を完了させていた。いつでも振り出せるという体勢でボールを待つ。  早く始動した分だけ、ボールを長く見ることができる。低めの外寄り、ストライクを取りに来た甘い球。この球をミートポイントまでよく引き付ける。  バットを手だけで振ってはいけない。後ろ足で地面を蹴りつつ、前足で思い切り踏ん張る。股関節をギュッと引き締めてやれば、下半身のエネルギーを乗せながらその場でグルンと回るスイングが完成する。  バットが最も加速する瞬間でボールを捉える。ミートポイントは近すぎても、遠すぎてもダメ。引き付けてから、前で打つ意識があるとちょうどいい。  合宿でやった『体感190キロ打撃』が活きていた。どうやって打てばいいか、頭で考えられている。どうすれば強く振れるか、身体が理解している。甲子園でも唸りを上げた速球が迫ってきても、武志にはちっとも怖くなかった。 「一丁上がりぃぃぃ!!!!!」  叫びながら武志は振り抜いた。地元・都筑区生まれ、実家は地域でも人気のラーメン屋。スタメン出場を知るや否や臨時休業してまで応援に駆けつけた父親へ向けての咆哮である。  武志が弾き返した打球は三遊間真っ二つ。サード中星、ショート海藤、甲子園でも鉄壁の守りを見せた二人が、一歩も動けない。痛烈な打球が一瞬で外野に到達し、外野の芝をピョンと嬉しそうに跳ねた。
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