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「とりあえず飲め。飲んで、深呼吸だ」
武志は最初こそ首を振った。自分なんかが他のメンバーを差し置いて、日陰で飲み物なんか飲んでいいはずがないと思ったからだ。
それでも大は『いいから飲め』と、断る武志の眼前にコップをずいと押し付ける。大の圧力に負けて、結局武志はドリンクを一口だけ口に含んだ。それから、言われたとおりに吸って、吐いてを2度繰り返す。
「どうしたんだよ。投げる時にビビったのか」
頭上から降ってくる大の声は予想外にも柔らかく、武志をからかうような雰囲気すらあった。きっと怒っていると思って大の顔を見られずにいた武志だったが、おそるおそる視線を上げてみる。
チラと視界に映った大は、微笑んでいた。マウンド上の鬼気迫る表情や、普段の練習中の仏頂面からは想像も出来ないような、優しい笑みである。
武志は小さく頷いた。それを認めるのは悔しくて仕方がない。『すみません』と詫びを入れたのだが、武志の喉からは消え入るような声しか出なかった。
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