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「まぁ、仕方ない。誰だってビビる時はあるからな」
大は武志の微かな声を聞き取っていた。少し体勢を屈めて武志の耳に顔を近づける。こっそり、内緒話でもするような雰囲気で、武志に語り掛け始めた。
「俺だってさ、この間の夏の大会は、ビビりながら投げてたんだぜ。手も足もガックガクに震えたまんまで試合やってたんだよ」
「え……そうなんですか」
武志にとっては意外な告白であった。チームの絶対的エースとして君臨し、その左腕一本でチームを県ベスト8に導いた大。その大が投げるのを恐れているとは、思いもよらないことだった。
「俺が打たれたせいで先輩が引退しちゃったらどうしようって思ったら、怖くて怖くて。でも、周りに心配かけるわけにもいかないし、雰囲気を悪くするのも嫌だった。だからとにかく、テンポよく投げようってことと、ストライクをどんどん取っていくこと。これだけを意識して投げた。
――そうしたら、結構うまく行ったんだよ。少なくとも、あの時点の自分の最低限は出来たと思ってんだ」
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