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「カッコ悪いかもしれないけど、アウト取るだけならワンバウンドでも充分だからさ。せっかく練習したんだから、ここで使おうぜ」
「はい……やってみるッス」
「3回目はもっと緊張すると思うぞ。でも、まず落ち着いて頭の中を整理しろ。出来ることと出来ないことを分けて、出来そうなことだけを徹底的にやろう。――俺はお前の守備力を信じてる。最近メチャクチャ良くなったのは見れば分かるからさ。ここを乗り越えて、もうひと皮剥けようぜ」
武志は目の奥がキュッと熱くなるのを感じた。こみ上げてきた涙が、目じりに溜まっていっぱいになる。
公式戦に出たこともない武志にとって、大は雲の上の存在。そんな人に『信じてる』と言ってもらえて、嬉しかった。だからこそ、より悔しかった。期待を裏切るような展開にしてしまい、申し訳なかった。
でも、泣くのはまだ早い。まずは、今日の練習を全て終わらせないといけない。
投手陣が、最後のダッシュ1本を走り切った。1回目の倍以上となる25本を、彼らは走り切った。罰走が終わったとなれば、いよいよ3回目のパーフェクトノックが始まる。
「さぁ、行け。お前の元気なところを見せてこい」
大は武志の背中をポンと叩くと、先にベンチを出ていった。向かったのは、ライトのファウルグラウンド。倒れ伏した4人に手を差し伸べ、一人ずつ背負ってベンチに連れて帰ろうとしていた。
武志は目じりに溜まった涙を、腕でガシガシと拭った。大に汲んでもらったドリンクを一気に飲み干すと、そのままグラウンドに駆けだす。大に呼び出された瞬間のトボトボとした足取りとは違う全力疾走で、サードの守備位置に戻っていった。
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