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序章 / Prologue(エリスティナの呟き)
* * *
「姫様っっ!!お待ちください、そんな格好のままで、お庭に出られては——」
「だって暑いんだもの。平気よマイラ、誰も見ていないから」
「そういう事ではございませんっ」
部屋着の私を追いかけて来るのは、メイドのマイラ。彼女がいったいいつから私に仕えているのか、もはや思い出せない。
物心つくずっと前からマイラは私のそばにいて、私の事を誰よりも一番に理解してくれている。
「皇子様方々とお茶の時間なのです、そろそろ着替えてお支度を……!」
双子のお兄様たちとの、週に三度のお茶時間。
言い出しっぺは穏やかな笑顔がすてきなラエルお兄様。アルベルトお兄様はちょっとクールなところがあるのだけど、一度も欠かさずサロンに来てくださっている…… おふたりは自称、『妹を溺愛する兄弟』なのだそう。
ラエルお兄様とアルベルトお兄様は、カッコよくてお優しくて、とてもとてもステキ。
だけど……リヒトの方が——。
「エリスティナ様、いい加減になさってください。もうお時間ですよ!それに……」
花壇の縁に座り込んだ私の膝に、白い被毛をふわふわさせた幼獣が飛び乗ってくる。
その様子を見て怪訝な顔をするマイラ。
「そんな妖魔の子、もうお手放しになっては?!姫様……幼獣は今は愛らしくても、成長すれば妖魔になるのですよ?可愛い皇女様が妖魔の子を飼われているだなんて、陛下と皇后様のお耳に入ったら!」
去年お祖父様が崩御され、皇帝に即位されたお父様。
皇后になられたお母様はたいそう美しい方。なにしろあの『碧目種族』の血を引いているのですもの。
(ということは、必然的に私もそうなりますね)
お父様は、そんなお母様が大切で仕方がないみたい。毎日何度も抱きしめて、優しくキスをして。
大恋愛の末に結ばれたそうですけれど、そんなお二人を見ていると、私も『簡単ではない恋』にちょっと憧れてしまいます。
それにしても……!
この子が妖魔になるだなんて!マイラってば、何を言うのかしら。
こんなに可愛いぃのに。
「ねっ、リヒト?!」
首を傾げて見てみれば、私の膝の上で丸くなっているリヒトがチラリと上目遣いで見上げてくる。彼もなんとなく機嫌を損ねているようだ。
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