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* * *
夜の帷はすっかり降りて。
眠りの床に就く私の枕元に、もふもふが丸くなって眠っている。
「リヒト……」
おかしい。
「寝てるの???」
この幼獣——リヒトが、私よりも先に眠ってしまうなんて。
小さくとぐろを巻く白い被毛に、そうっと鼻を埋めてみる。
——反応がない。
こちょこちょ……
——反応がない。
「……ほんとに寝てるっ」
だって、私がこうして床に就こうとすれば、いつもなら——。
私は少しホッとして目を閉じる。
だけど、穏やかに眠れやしない。
なぜかしら……自分でも、理解できないもどかしさ。
被毛に半分埋もれた妖獣の目が、薄く開いた。
グルン!!!
「きゃあっ」
ずしっとのしかかる重み。
驚いて目を開けると、私の身体を両腕で囲むように組み敷いたリヒトの、澄んだ青い瞳が視界に飛び込んだ。
ぬっ、と、元の姿に戻ったリヒトの、きれいな顔が鼻先に近づいて……彼のはしばみ色の前髪が私の額に触れる。
「ティナ」
「リヒトだめっ、近い……近いっっ!」
厚い胸板を力一杯両手で押しのけるけれど、リヒトの力には敵わない。
「ちょっと!重いからっ。離れ……て?!」
「君から声をかけてきたというのは」
リヒトは形のいい唇をわたしの耳元に近づけて、甘い吐息とともに言葉を放つ。
「今夜こそ、わたしと契りを交わしてくれるのか?」
* * *
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