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優しさ
第1ページ目に扉絵を追加致しました。
《リヒトガルド&エリスティナ》
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それから直ぐにマイラが扉を叩いたので、“リヒト“は獣の姿に戻り、エリスティナは狐につままれたような気持ちのまま着替えを済ませた。
マイラが運んできた朝食を、なんとなく口に運ぶ。
リヒト……獣は、エリスティナの椅子の下で丸くなっている。
「良かったですね。幼獣が元気になって」
マイラが気を利かせて、ミルクと残飯らしきもの——使用人の朝食の残り物か何かだろう——を小さな皿に盛ったものを獣の前に置き、新しいシーツを片手に寝室へと向かった。
「ぁ……」
一粒のマスカットを指先につまんだまま、エリスティナが視線を落とせば、立ち上がった獣がクンクンと飯椀に鼻を近づけ、躊躇いがちにひと舐めする……けれど『グシュン!』と小さなくしゃみをして、隣の皿のミルクを舐めはじめた。
「ねぇ……あなたは、何者なの?」
堂々とした仕草に漂う気品。
着衣に華やかさはないが、整った身なりは明らかに貧民でなはい。それなりの身分、ともすれば爵位を持つ家柄の者かも知れない。
「……そんなあなたが、残飯なんて食べないわよね?」
嵐の夜、この獣を介抱した時から、心を決めていた。
「あのね……」
席を立ち獣の前にかがみこめば、赤い舌でミルクを飲んでいた愛らしい生き物がツと顔を上げる。獣の青い双眸が朝の光を孕んで煌めいた。
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