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「あなたの呪詛のこと。とにかくあなたを、どうにかしてあげたいの。助けて欲しいって言われたまま、放っておけないもの……っ」
獣…——リヒトガルドは、まばたきもせずにエリスティナを見つめている。
「——姫様?」
寝室から戻ったマイラが、怪訝な顔を向けてくる。
(リヒトのこと、マイラに話したい……!)
これまでただの一度も、マイラに隠し事などしたことはない。
家族同然のマイラに秘密ごとを抱えるのはあまりにも心苦しく、胸の奥がぎゅっと痛んだ。
「マイラっ……この子には、私の食事を分けてあげてもいい?残飯では可哀想だから」
マイラは少し首を傾げたが、
「——承知いたしました。では姫様のお食事を、次から少し増やしましょう」
エリスティナのメイドになる前は、皇后付きの侍女として手腕を発揮していた彼女は二十年来のベテランだ。
ここで『幼獣に与えるものなんて、残飯で十分でしょう』とは言わない。
主君の気持ちや状況を瞬時に察する能力に優れ、エリスティナにとっては第二の母のごとく、良き理解者でもある。
(皇宮に留まらせる以上、リヒトのことを隠し通せるとは思えない。お父様とお母様にも、きちんと事情を話せば……。呪詛がかりだったお母様なら、リヒトの呪詛を解く別の方法だってご存知かも知れないし、力になってくださるかも——。お兄様たちはダメ!私の寝所に入ったなんて知ったら、リヒトは殺されてしまうっ)
なにしろエリスティナは、自他ともに認める『双子の兄に溺愛される妹姫』なのだから。
*
*
「——すっかり生き返った気分だ」
エリスティナの部屋で湯浴みを済ませたリヒトガルドが、彼の身体には小さすぎるガウンを羽織って湯殿から顔を覗かせた。
「や、やっぱり短いわね?!私の……っっ」
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