優しさ

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エリスティナにはふくらはぎ程のガウンの裾は、リヒトガルドの腿の上で淫らにはだけていた。他に着替えが無いのだから仕方がない。 「お兄様たちのお洋服、借りられればいいんだけど……」 ——マイラなら、すぐに用意してくれるだろうに。 しっかりと部屋に鍵をかけたので誰も入って来られないはずだが、心はそぞろだった。秘めごとをしているというのは、何とも居心地が悪い。 それに——。 リヒトガルドが湯殿にいるあいだは、本当に落ち着かなかった。 扉一枚隔てた向こう側に若い男性が湯浴みをしている。濡れそぼる髪や逞しい背中を想像し、高鳴る鼓動に散々胸を叩かれた。 「お風呂っ、上がったのなら……ちょとそこに座って?」 呼ばれてそばにやって来たリヒトガルドからは、まだ冷めやらぬ熱気と石鹸の香りがする。 エリスティナが座るソファの隣に浅く腰を掛ければ……やはり彼の身体は。肩の上にあるその顔を見上げれば、湯浴みのあとの濡れ髪と、男性なのにどこか色気のある顔立ちに見下ろされていて。 リヒトガルドと同年代であろう兄達のそばで育ち、男性には慣れている筈なのに、血の繋がった身内ではない男の前では気持ちが全然違うのだ。 唖然と惚けていれば、いきなり大きな手のひらが目の前に伸びてきたので、思わず身体を後ろに引いた。 リヒトガルドは「あ……」と小さく呟いたが、それでも片手は宙に(とど)めたままだ。 彼の指先が、否応なしにエリスティナの視界に飛び込んでくる。 「待って、髪が——…」 「ぇ?」 とどまればそのまま指先が伸びてきて、唇に絡んでいたひと筋の髪を外してくれる。指が僅かに頬に触れたので、肩が少し跳ねた。 ああ……まただ、この感じ。 頬だけでなく心の奥深くをくすぐられるような……兄達のものとは少し違う穏やかな優しさが、エリスティナをますます惚けさせた。
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