幼獣と皇女様〜獣に姿を変えられた美貌の王太子が迫ってきます

婚約破棄と暗殺と

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オルデンシアの帝都を抜けた三つの馬の影は風のように林を駆け、皇城壁の山門を走り抜けた。

はしばみ色の髪の下にルビーレッドの瞳を鋭く煌めかせ、白いマントをなびかせた青年が先頭を駆る。あとの二名は護衛だろうか。
はしばみ色の髪色はグルジア人に多く見られるものだ。グルジア国から差し向けられた若い大使は、皇城前に聳(そび)え立つ青銅門に息を呑んだ。

中央庭園の噴水前ロータリーに数名の出迎えの者たちが並ぶ。
その中にシャニュイ大公の姿があった。

大公、アドルフ・シャニュイ。
皇帝の従兄弟で公爵位を持つ彼だが、幼少の頃から皇帝の側近に就く家臣の第一人者だ。

「——陛下がお待ちです」

馬を降りた彼らに視線を向ける大公の表情には、僅かな緩みさえも見当たらない。精悍な顔だちに刻まれた浅い皺は威厳を放ち、その双眸の鋭さにグルジアの大使——レン・ヴァニ・シヴィルは刹那、怯んだ。

「何——『皇帝との謁見は命を捨てる覚悟で望め』などと言う詔は過去の事。現皇帝は情に厚い御方だ、案ずることは無い」

皇城の深部に位置する謁見の間の、二つ目の双扉が開かれた。

広々とした空間の奥、数段高くなった拝殿の玉座に腰を下ろすのは、現皇帝カイル・クラウド・オルデンシア。
その隣で腕を組み、気怠げに壁にもたれて佇むのは、双子の皇太子の一人だろうか。拝殿前に堂々とひざまずくレンを強く睥睨(へいげい)する瞳……レンは瞬時に察する、歓迎されていないのだと。