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「グルジアの大使よ、遠路大義であったな。堅苦しい挨拶は抜きだ、早速その『話』とやらを聞こう。そこに二人の皇太子を同席させているが、問題は無いな?」
目の端で見遣れば、拝殿のすぐ下、シャニュイ大公の隣にもう一人の皇太子が着座している。
拝殿の上から猛然と見下ろす皇太子は、黒の礼服に身を包む。大公の隣で柔和な目を向けてくるほうは白い礼服——黒と白、動と静。
双子と聞き及ぶその顔貌は瓜二つであるのに、纏う気迫はまるで正反対だとレンは思う。
挨拶は抜きだと言われたが、名を名乗り改めて深く拝礼をしたあと、レンは発言を続けた。
「畏れながら皇帝陛下——我がグルジアの国王陛下妃、ゾエ・ド・ヴァリエール陛下からの命で参上致しました。既にお聞き及びかと存じますが……我らがグルジアの第一王太子殿下は、国王の葬儀の日に……その……、」
レンはうつむき、言葉を濁した。
「——行方をくらましているのだろう?!」
拝殿の上から低い声が降ってくる、黒の皇太子だ。
「いえ……、大変申し上げにくい事ですが……」
「何だ、口ごもっていないで早く言え!」
発言を急く皇太子を、皇帝が手を挙げて諌める。
「王太子リヒトガルド殿下は……、国王の葬儀の日に、自害なされました」
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