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レンは——彼自身の感情を堪え切れなかったのだろう、形の良い唇を一文字に引き結び、奥歯をグッと噛み締める。
途端、拝殿の向こう側の空気が張り詰めた。
「——なんだと!?」
皇帝は驚いて玉座を立ち上がるが、一呼吸置いてゆっくりと着座する。
「それは事実、なのか?」
「はい。王太子の自室が焼失し、焼け跡から黒焦げの遺体が——。そして同日、王妃陛下には王太子の『遺書』が届けられました。自分は両親の元へ逝く、後継には第二王子を立てろと」
二人の皇太子が互いに視線を合わせた——言葉を交わさなくとも、彼らは意思を共鳴させる、『馬鹿げている』と。
ややあって、拝殿の上の皇太子が抑揚のない言葉を放った。
「——レン、と言ったな。お前は王妃側の人間か?」
すぐ後にもう一人が続ける。
「アルベルト。聞くまでもない、彼は王太子側だ。先程の発言からずっと肩を震わせている、王太子に対する忠義心がそうさせているのだろう……どうだ、レン、違っているか?」
心を見透かされたような気がして、レンは込み上げるものをグッと堪えた。
「——しかし遺体は黒焦げで、誰のものか判別出来ませんでした。わたしは……王太子は存命だと……信じております」
「うむ」
皇帝は顎に拳をあて、思案するような素振りを見せた。
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