森へ

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* * 黒夜の話をマイラに聞いてから、激しい雨が数日のあいだ降り続いた。 おかげで楽しみにしていた乗馬での外出が伸び伸びになり、苛立ちが募っていたところだ。 その日——。 明るい日差しを瞳の奥に感じながら、そうっと瞼を持ち上げる。 飛び込んできた光の眩しさに抵抗して、長い睫毛が(まばた)きを繰り返した。 なんて清々(すがすが)しい朝……! ふゎぁ〜っと大きく伸びをして身体を起こし、ベッドから片足を下ろしてうつむけば、金糸のような長い髪がさらりと膝に流れ落ちた。 マイラが来るまでに起きられたのなんて久しぶりだ。 今日は“いいこと“がありそう。 (朝食を食べたら、お兄様たちに遠出のお誘いをしてみよう!) 兄たちと時々出掛ける、森の向こうの丘の上。 鮮やかな初夏の緑に囲まれて、美しいグルジアの海を望む絶景を足元に昼食を摂り、そのあとたっぷり馬を走らせて。 海の向こうに燃える夕陽が、ゆっくりと落ちてゆくのを眺めながら帰路につくのだ。 少しだけ開けられた窓から心地よい風が入って来て、エリスティナの腰まである長い髪を揺らした。 宝石よりも美しいと言われるエメラルドグリーンの瞳と、真っ直ぐで艶やかな白金の髪は母譲り。 皇帝に即位したばかりの父親は、そんなエリスティナを若い頃の妻を見るようだと言って頬を緩ませる。 (お父様ったら……。何をおっしゃっていても、お母様の事が一番なのは皆が承知ですからね?!)
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