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「この度は弊社の不出来際による納品ミス、大変申し訳ございませんでした!」
クライアントの応接室いっぱいに響き渡る声で頭を下げた。
隣で真野も同じように慌てて頭を下げる。
おろしたばかりのクリーム色のパンプスが目に入る。
これをおろしたときは、良い方向に物事を運んでほしいと願ったが、最初からその願いは聞き入れられなかったようだ。
急いできたせいで、あちこちにぶつけてすでに傷だらけだ。
「本当に困りましたよ…。お願いした納品日に納品していただければいいだけのことなのに」
担当者とその上席のおじさんは椅子に座ったまま息をついた。
「キャンペーンに合わせたいって言いましたよね?」
「もうすでに色々告知しているのに、それをずらすことなんて出来ませんよ」
詩織はその言葉を聞きながら、スカートをギュッと握った。
「おっしゃることはごもっともです。御社のせっかくのキャンペーンを台無しにしてしまいました。この責任はすべて上席の私にあります。本当に申し訳ございませんでした」
隣の真野はあれから何も言わない。
ただ頭を下げてこの時間が過ぎ去るのを待っている。
きっと詩織がどうにかしてくれると思っているのだ。
彼女はその様子を見て、一瞬冷静になってしまった。
クライアントが何かを言っているが何も聞こえない。
後輩ができないのは自分のせい。
自分の仕事が回らないのも自分のせい。
先輩になったら、後輩の面倒を見ながら、自分の仕事の効率化を考えて、うまく回していかなければいけない。
……年次が上がって仕事が増えたのに?
後輩がやる仕事は一言一句見てあげる?赤ちゃんじゃないのに?
教え方が悪い?教育者じゃないのに?
後輩の尻拭い?自分が悪いと思っていないのに?
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