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詩織はふと顔を上げた。
まだクライアントはこちらに向かって何かを言っていた。
そう。
すべて自分が悪い。
…………なんて、思えるか。
詩織はクライアントの言葉を遮って口を開いた。
「この度は申し訳ございませんでした。すべて私の責任です。なので、私の代わりにこの子がなんとかします」
「「えぇ?!」」
詩織は無表情のまま淡々と述べて真野を差し出すと、くるりと踵を返して応接室を出た。
「ちょっ…!詩織さん…!」
後ろから真野の焦る声が聞こえたが、もう無理だった。
これ以上頭を下げたら私の精神がすり減る。
そう思って、捨てた。
そのままクライアントの会社を出る。
車を置いたままずんずん歩いて未知に出る。
脇目も振らず一心不乱に突き進んだ。
こんなことしたら、クライアントからの契約は切られ、会社は損害。
会社からはクビを宣告されるだろう。
詩織は首からかけられた社員証を眺めた。
そうだとしても、もう無理だ。
しばらく歩いていると、隣町に行く橋の上まで来ていた。
新しいパンプスは乱暴に歩いたせいでさっきよりも傷だらけだ。
自分が頑張った証もこうやってすぐボロボロになる。
行く宛も無いことに気づいた詩織はゆっくり歩みを止めた。
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