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そっと橋の手すりに手を置き、太陽でキラキラ光る川の水面を眺めた。
真野の一件を放棄し、3時のプレゼンも逃げ出した状況。
しかし、
「…まぁ良いか」
後輩の尻拭いはしなくていいし、徹夜でプレゼン資料を作る必要もない。
クライアントの急な素材変更に振り回されずに済むし、校了に焦ることもなくなる。
詩織は社員証を首から引っこ抜き、思いっきり川に向かって投げ捨てた。
そして、大きく息を吸って叫んだ。
「バカヤロー!!
5営業日と5日を間違えるんじゃなーい!
国語の問題だー!中学生からやり直せ!
納期ギリギリに発注してくるなー!もっと前もって依頼してくれればもう少し対処のしようがあったのに!
悪いのはこっちだけ?下請け会社を見下すんじゃなーい!
自分のプレゼンくらい自分でやれ!
それで結果が悪かったらあたしのせいにするんでしょ?
ふざけんじゃなーい!」
昼下がりの太陽の下。
28歳のOLが川に向かって叫んだ。
一息で勢いよく叫んだせいか、クラっとめまいがした。
そのまま重力に引っ張られるように前のめりになる。
そしてドボンと大きな音を立てて詩織は川の中へ落ちた。
草の匂いがした。
さわさわ耳元で何かが揺れる音もする。
橋の上で感じた排気ガスや車の騒音は全く感じずに、川のせせらぎが近くに聞こえる。
「…ん」
まぶたの向こうに光を感じて、ゆっくり目を開いた。
雲ひとつ無いまっさらな青い空が飛び込んでくる。
視界には少し伸びた雑草。
ゆっくり首を動かしても雑草。
「起きたか」
すると、突然誰かに話しかけられた。
驚いて飛び起きる。
そこにいたのは、教科書で見たことがある着物姿の男性。
長い黒髪を一本で結い、紫色の綺麗な着物を着ている。
腰には長い刀が添えられていて、あまりにもリアルだった。
慌てて周りを見渡すが、一面自然豊かな雑草や木々、川しか無い。
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