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「サイトウさん。」
ボクの席の二つ前の席で、
本を読んでたサイトウさんに声をかけた。
「あ、タムラくん。」
「なんかごめんね。」
サイトウさんに謝った。
「トウキってあーゆー奴だから、声でかいけど、
サイトウさんに聞こえるって考えずにしゃべっちゃうやつだから。」
「うん、ええっと、大丈夫。」
「転校してきたばっかだから、サイトウさんのこと気になるみたい。」
「そうなんだ。」
サイトウさんは開いたままの本に視線を落とす。
やっぱりちょっと怒ってるのかな?
「でもあいついい奴だから。あ、そうだ。トウキに合いそうな本ってある?」
「うーん」
サイトウさんは漢字の八みたいな眉毛をしている。
普段もそうだし今もそうだし、普段から静かなので、
困っているのかこれが普通なのかよくわからない。
「私、クワハラくんのこと詳しく知らないから。」
「そりゃそうか。」
トウキがサイトウさんのことをよく知らないんだから、
サイトウさんもトウキのことをよく知らないだろう。
「あ、でもクワハラくん、明るくて元気で外で遊ぶのが好きだから、
冒険するお話とかスポーツのお話とかいいかも。」
「あー、いいかも。じゃあボクはサイトウ書店でそーゆー本探すよ。」
「え、そうなんだ。」
「うん。こないだ図書カードおばあちゃんにもらったし。
図書館で本を借りてもトウキじゃ返却期限までに読むかわからんし、
最悪失くす可能性もあるし。」
前に貸した漫画を失くされて、
トウキが自分の部屋を片付けて出てくるまで
かなり時間がかかったことがある。
「ありがとうね。」
「なにが?」
「ウチで買い物してくれて。」
「なんでサイトウさんがお礼を言うの?
家から歩いてすぐの場所で本屋さんがあって、
種類も多くて、好きな本を好きな時に探せるなんて
すごく嬉しいことじゃん。お礼を言うならボクの方だよ。」
サイトウさーん、と教室に入ってきた
隣のクラスの女子がサイトウさんを呼んだ。
「じゃあボク帰るから。バイバイ。」
「うん、バイバイ。」
教室でサイトウさんと別れて家に帰り、
鞄を置いてからサイトウ書店に向かった。
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