天才の親友

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天才の親友

 男はボーッと戦争映画を観ながら、また今までのことを考えていた。 『これも面白くない戦争映画だ。全く入り込めないし、感情移入出来ない。そしてアイツはまだ連絡をしてこない…。  アイツのこのは物心付いた頃から知っていたな…。家が近所だったし、幼稚園も同じだったから、いつも一緒に遊んでいた。アイツは身体も小さく運動音痴で、すぐに泣いてしまうような弱っちい奴だったな…。よく他の友達や年上に(いじ)められたりすることがあったが、俺はアイツを弟の様に思っていたから、いつも助けてやってたな…。  そしてアイツとは小学校も同じだった。アイツはこの頃から頭が良く、成績も常に一番だった。よく勉強を教えてもらったな…。この頃もいつも一緒に遊んでいて、常に行動を共にしていた記憶しかないな…。  中学校に上がる時に俺とアイツは別々の学校になった。アイツはなんでも国直属の中学校に通うとかで引っ越して行ってしまったからだ。  俺は悲しくはなかったが、喪失感に(さいな)まれた。だが、そんな気持ちも半年もすると新たに出来た友人や彼らと遊んでいくうち無くなって忘れ去っていたのだ。  その後はアイツのことは思い出すこともなく社会人になり、ただ仕事をこなすだけの日々を送っていたのだ。  だが、一ヶ月ほど前のことだった。アイツが数人と取り巻きと共に俺の前に現れたのだ。十数年ぶりにアイツと会ったのだが、俺はアイツだと一目でわかった。 「あ!久しぶりじゃないか!どうしてたんだ?元気だったのか⁈」  アイツは息も絶え絶えで、とても焦っていた。 「話は後だ!お前を助けたいんだ!来てくれ!」  アイツはそう言って車に乗る様に言ってきたが、俺は突然の展開に戸惑っていた。 「おいおい、そりゃ無いぜ。久しぶりに会ったって言うのにあんまりじゃないか」  俺がそう言うとアイツは初めて見る怒った顔で取り巻きに命令した。 「やれ!」  取り巻きが一斉に俺に襲い掛かってきたが、腕っ節に自信のある俺は二、三人を投げ飛ばしてやったが、変な薬品を(かが)がされて気を失ってしまったのだ。  そして気がつくと、この十畳ほどの出入り口も窓も無い筒状の部屋に監禁されていたのだ。どうやらここはアイツの所有の施設で、アイツの字で「後で必ず連絡するから待っててくれ」とだけ書かれたメモがあった。俺は賢いアイツがここまでするにはただ事ではないと思って言うことを聞いているのだ。  ここには風呂もトイレもあり、食事も時間になると自動的に壁が割れて出てくる。何もすることが無く、唯一あるモニターで映画を観るくらいしか時間をやり過ごす術が無いのが今の悩みだ。  備え付けの時計によると俺はもうここに一ヶ月も居る。あいつは一体何を企んでいるのか…。さて、次はどんな映画を観るとするかな…』  この時、男が居るシェルターの三百メートル上の地上はすっかり焼け野原になっていた。男がここに監禁されたあの後すぐに世界大戦が勃発したからだ。その大戦は地上を七日間で世界を焼き尽くしたのだ。男の親友はこのシェルターを九九個用意していて、こういう時の為に自分を含めた九九人が避難できる様に準備していたのだ。  だが、誤算があった。男を最初にこのシェルターに(かくま)った数分後に各国が一斉に攻撃を始めたのだ。親友の計画は幼き頃に自分を守り、助けてくれた唯一の親友の男一人を助けることしか出来なかったのだ。  結果として男はこの星で生き残った唯一の人間となってじまったのであった。終
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