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が、思っていたことは起こらず、幼い子どもがまるでしがみ付くように俺の腕に納まった。
俺は先輩を見ながら、無意識に流貴を抱えて、背中を擦る。
それがよかったのか、うとうとし始める流貴は、人間の子どものように思えた。
(これじゃ、保護者だな)
先輩は、ふぅと息を吐いた。
「そういうところだよ、竜助君」
先輩を見れば、呆れながらも優しく微笑んでいた。
「まさに、君は龍神君だな」
俺はすやすやと寝息を立て始めた流貴の顔を見る。
「寝てると可愛いんだけど。でも、先輩。流貴が俺に憑いてるってことは、留まってるんじゃ……」
「君と流貴は今や一心同体。君が生きている限り、流貴の気も流れ続ける」
「そうなんだ。よかった」
「……嬉しそうだな」
「そりゃ嬉しいですよ。やっと友達と再会できたんですから」
物心ついた時からの友達。
俺が心からそう呼べるのは、流貴だけ――
「私だって君を友達だと思っているんだがね、竜助君」
「竜助です! ……え?」
雨宮先輩の方を向けば、彼女はすでに帰り支度を済ませていた。
「ちょっ、……!」
「部室の鍵を頼む」
帰りかけた先輩が、一瞬立ち止まった。
「龍神君、明日は暇か?」
明日は、土曜日。
答えはもちろん。
「竜助です! 暇ですよ!」
気まぐれな友達は、黒縁眼鏡と口角をクイッと上げた。
この部活に入った当初は、夕立の時にだけ現れていた流貴の正体を知りたいだけだった。
だが、俺はいつの間にかこの瞬間、そしてこの言葉を待っている自分がいることに気付いた。
雨宮世津子のスイッチが入った、この時を――
「じゃ、明日の八時に『喫茶ひまわり』で」
~Fin~
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