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かつて開かずの教室だった三階の角にある部室に戻れば、長い黒髪に黒縁眼鏡と、いかにも陰キャな女子生徒が、人を殴り殺せそうなほど分厚い本を読んでいた。
彼女の名前は雨宮世津子。
三年で、都市伝説部の部長だ。
この部には、部長と二年の俺と、あと一年に二人の幽霊部員がいる。
この高校は原則、部活に入部しなければならないため、幽霊部員の二人はとりあえずこの部に入ったのだろう。
一見すると、部室にただ籠って怪しげな本ばかりを読んでいる部活のようだが、実はしっかりと活動している。
時に運動部よりもハードなほどだ。
それもこれも、戻ってきた俺を見ることなく、分厚い本に目を通している研究熱心な目の前の彼女がいるからだった。
「帰ったのではなかったのか? 斎藤龍神くん」
「何回でも否定しますが、俺の名前は竜助です。雨宮先輩」
いつも返答をすれば、雨宮先輩は白い指先で黒縁眼鏡をクイッと上げた。
それでも、やはり俺を見ることはない。
「友人が遊びに来るのではないか?」
俺が無言でいつもの席に着いて顔を伏せたら、小さな溜息が聞こえただけで、先輩はそれから何も言わなかった。
雨音と雷鳴と、本のページを捲る音が心地良くなっていく。
(なんだろ……? 誰かの、呼ぶ声みたいな……)
俺の意識は、ゆっくりと沈んでいった。
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