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「あれ? 竜助君か?」
「田代のおじさん!」
田代のおばさんの夫で、俺が家にお邪魔している時はアイスやお菓子をよくくれた。
当時よりも痩せたように見え、どことなく疲れているようにも思えた。
が、張りのある大きな声は変わらなかった。
「すっかり大きくなって。おぉ、彼女と一緒か?」
「ちっ、……」
「お友達です」
間髪入れずにこやかに答えた先輩に、おじさんは一瞬戸惑い、「そ、そうか、友達か」と苦笑いだった。
「でも、ほんと大きくなったなぁ。五年も経つと男の子は顔立ちが違うなぁ。一瞬、誰か分からなかった。うちは女の子ばっかだから」
田代家には三姉妹がいた。
俺がお世話になっていた時には高校生か大学生くらいだったから、もう社会人になっているだろう。
内気だった俺は、あまり話をすることができなかったが、それでも仲良くしてくれたと思う。
「お姉さん達は?」
「もう盆とか暮れとかにしか帰ってこんよ。今、この家には俺独りさ」
「えっ……?」
おじさんは確かに言った。
「独り? あの、おばさんは……?」
「あぁ……先月、病気でな」
「え…………じゃあ、駅で話したおばさんは、一体……?」
俺が先輩を振り返ると、顔面蒼白となった彼女は微かに震える指先で黒縁眼鏡をクイッと上げた後、俺のTシャツの袖をぐっと掴んだ。
彼女が大のお化け嫌いだということを、俺はやっと思い出したのだった。
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