雨と雷の思い出

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 そう、その子は人間ではない。  俺が一年ごとに歳を取り、背が伸び、普通という世界を知っていっても、その子が変わることはなかった。  でも、そんなことはどうでもよかった。  俺には大切な友達だったのだから……  夏の夕立の時には雨に濡れ、泥んこになり、大声ではしゃいだ。  自分からこんなに大きな笑い声がでることをはじめて知った。  意外とはやく走れることも、負けず嫌いなところがあることも。  その子が俺に教えてくれた。  俺が楽しいことはいつまでも続かないと気付き始めた頃。  突然、その日がやってきてしまった。  親父の仕事の都合で引っ越すことになってしまったのだ。  俺は、小学五年生になっていた。  それでも、夏の夕立は待ち侘びていた。  だから、親父から引っ越しを聞かされた時は、大泣きをして嫌がった。 「お父さんだけ引っ越せばいいよ! 俺はここに残る!」  親父は困ったような顔をしながらも、俺を叱ることはなかった。  それがまた俺には癪に障った。 「なんでお父さんはいつも勝手に決めちゃうんだよ⁉ 俺のこと、いつもは気にしないくせに!」  俺のことなんて――  それを口にする前に、背後で雷鳴が轟いた。  雨が降った。  大雨だ。  その子が、いつも通りに。 『竜助、遊ぼうぞ!』  俺は振り返った。  視界が揺れていた。  これは、雨が降っているからか。 『竜助――?』  俺が……泣いていたからか。  夕立が、泣いていたからか――
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