喫茶ひまわり

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喫茶ひまわり

 結局朝の準備に時間をかけたところで、俺の服装なんてTシャツとジーンズ以外にない。  髪のセットは、親父に比べたら三分の一の時間で済む。  ちなみに親父は癖毛で量も多いから、ドライヤーやワックスで入念な手入れが必要なのだ。  服装に気合を入れることはなく、ただ早めには家を出た。  雨は小降りになってはいたが、今日は止みそうにない。  ビニール傘に当たる雨音を聞きながらふと反対側の歩道を見ると、五、六歳くらいの男の子が母親と手を繋ぎ、楽しそうにはしゃいでいた。 「きょうは、なにをしてあそぼうかな!」 「こらぁ、あんまり飛び跳ねないの」 「だってぇ、たのしいんだもん!」 『竜助!』  俺はハッとして、辺りを見た。  が、誰もいない。  懐かしい声が聞こえたような気がしたのに。 (ったく……先輩が変なこと言うから……)  遠くでまた稲光が走った。  俺は足元が濡れるのも構わず、『喫茶ひまわり』に向かって駆け出したのだった。
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