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入学式当日。答辞を読む気満々だった岬は高校生活しょっぱなから出鼻をくじかれた。総代は彩乃だったのだ。壇上に立ち、朗々と答辞を読み上げる彩乃に地団太を踏む勢いだった岬は、式が終わった時に後ろから肩を叩かれた。
「よお、岬」
「秀星(しゅうせい)か……! どうして此処に?」
上田秀星(うえだしゅうせい)は子供の頃に岬が下僕扱いした子供うちの一人だった。当然彩乃の通っていたエスカレーター式の高校に行ってると思いきや、何故この公立高校に……。
「岬が庶民の中でどんな学校生活送るのかなって思ってさ……。っていうのは半分冗談で、彩乃さんが此処に進学するって聞いたから、慌てて受験したんだよ」
そうだった。秀星は子供の頃から彩乃を好きだったのだ。彩乃が岬の家にマルたちを見に来るのを、苦々しく思っていたらしい。そんなわけで、昔は彩乃を挟んで勝手に岬をライバル視していた。岬は彩乃に何の好意も持っていなかったというのに。
人は恵まれすぎると勝手に恨みを買ってしまうらしい。岬の場合は恵まれていなくても恨みを買っているようだった。
「お前、今、彩乃さんの家に居るんだって? なんでお前ばっかり……」
「好き好んで居るわけじゃないよ。事情があるんだ」
「知ってるぜ、借金の肩代わりだってな」
くすっと蔑む笑みを浮かべられて、こめかみがぴくぴくする。それでも事実だから、否定は出来ない。
「もう良いか? ホームルームに行かなきゃいけない」
「ああ。せいぜい庶民と仲良くしてろよな。俺は彩乃さんに今度こそ振り向いてもらう」
そう宣言して、秀星は去って行った。何故彩乃のことで敵視されなきゃいけないのか分からないが、岬は彩乃の事なんかなんとも思ってないから、彩乃が秀星と付き合おうが振られようが、知ったことではない。岬は彩乃に総代を譲ってしまったという屈辱に打ち震えながら、ホームルームに向かった。
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