脅かされる高校生活

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岬の通う高校は、岬の出身中学からの進学率が高い。だから知った顔も多いし、クラスには直ぐ溶け込めた。 「岬くん、また一年一緒だね。よろしくね」 そう言って声を掛けてくる生徒の多いこと多いこと。女子が主だが、男子もそこそこ居る。岬は中学で男女分け隔てなく接していたので、男女どちらにもおおむね好感を持たれていた。 ホームルームでは明日からのオリエンテーションについての説明があっただけで今日は解散になった。暫くざわざわとクラスの中がざわめいている中、廊下の扉から岬を呼ぶ声がした。 「安藤、お呼び出しだぞ」 そう言われて振り向くと、其処には彩乃が立っていた。彩乃は岬が自分を見たと分かると、嬉しそうに教室に入ってきた。……中学三年間で培ってきた地位を、彩乃の所為で全て地に落とすことになるのか……。そう思うと歯ぎしりしてしまう。 「岬くん? 帰りましょ」 彩乃はそう言って岬の手を取った。思いもよらぬ彩乃の行動に驚く。そして別の意味でも驚いた。 ……手が、小さくてやわらかい。 岬の手は成長期ということもあって、大きく骨ばっている。対して彩乃の手の感触はやわらかく、まるでキルティングのミトンのようだった。 中学時代、モテたと言っても女の子の手を握ったりするようなことはしたことなかった。だから女の子の手が、こんなにやわらかいなんて知らなかった。 そうやって気づいてしまえば、彩乃の何処もかしこもまろいことに気が付いてしまう。 肩は緩やかな曲線を描いて落ちているし、肘も骨っぽくない。胸はまあるく膨らんでおり、制服のブラウスの袷が持ち上げられている。スカートから見える膝小僧も傷ひとつなく白くてそのなだらかなふくらはぎへと続いている。 急に彩乃に対して『女子』を意識してしまった。どきんどきんと心臓が逸って鼓動を打ち始める。 (手……、手を放してくれないか……) せめて手を放してもらえたら、こんなこと意識しなくても良いのに、彩乃は岬の手をきゅっと握ったまま其処に居る。 「岬くん?」 しびれを切らしたのだろうか、彩乃が座って居る岬を覗き込んできた。その大きくて真っ黒な瞳のきらきらときれいな事と言ったら! そんな岬の動揺を知らない彩乃が帰りを催促するので行かないわけにはいかない。周囲の生徒に、じゃあね、と挨拶をして、平静を保って彩乃と連れ立って教室を出る。 教室を出ると、ほっと息を吐けた。そこで彩乃の機嫌の良さに気づく。 送迎の車もない、設備もぼろぼろ、学食なんて当たり前になくて、グラウンドも一つだけ。制服だってあのエスカレーター式の高校ならデザイナーズブランドの制服が着れただろうに、こんな普通のブレザーの制服で何が楽しいのか、彩乃は機嫌が良かったのだ。 昇降口を潜って校舎の外へ。そこで岬は口を開いた。
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