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涙
子供の頃、長期の休みになると必ず、母の実家の仙台へ行った。
新幹線に乗り暑い東京から、若干涼しい仙台へ。
ホームに降り立つ瞬間が大好きだった。
ワクワクして。
とても楽しくて。
改札口を出るとすぐ、祖父母が待っていた。
「真夏ちゃん、よく来たね。」
仙台も都会ではあるが、やはり東京と違って樹木の匂いがする。
空気を体一杯に吸い込む。
祖父母の家は仙台市内でも郊外にある一軒家で、車で到着するとすぐに庭に出て遊び始める。
昼間は庭を探検。
夕方には植木に水をあげる。
だが、そんな事も日が経つにつれ飽きてくる。
庭で1人で遊んでいると、門扉の方から男の子の声がした。
「ねぇ、引っ越してきたの?」
「ううん、ここおばあちゃんとおじいちゃんの家なの。」
「なんだ。
僕、隣に住んでるんだ。
東京から引っ越してきた。」
「東京から?」
「うん。僕、三井一吹。」
「私、佐々木真夏。
ねぇ、一緒に遊ぼう?」
「うん!」
飽きていた田舎の風景が、急に楽しくなっていくのに時間はかからなかった。
一吹君はサラサラの長めの黒髪に、切長の瞳。
彼の家に泊まりに行ったりするほど、仲良くなっていった。
そして、東京に帰る日。
一吹君は目にいっぱい涙を溜めて、
「真夏。また、来るよな?」
「うん、絶対行くから。だから泣かないで?
次は冬休みに行くから待ってて。」
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