第二章【キィ】

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 そして、夜七時半。角野第二公園。  ぼくとたけるが行くと、すでに自転車にまたがった久野と、マウンテン・バイクにまたがったこーすけがそろってそこにいた。 「ひ・ろ・と・くうん! アタシはこーこよーう」  こーすけがぼくらを見つけて手をふる。気持ち悪いこーすけに近寄って、そのまま一発殴っておく。 「痛っ。……ほんまシャレ通じへんやつやなぁ」  頭をなでるこーすけに、ぼくはジト目になって低く言う。 「ボケるんなら、もっとマシなボケかたして」 「いやん。ひろとくんったら、わ・が・ま・まっ」 「ボードで殴りつけられるとけっこう痛いって、知ってた?」 「ごめんなさいもうしません。……て、ボードもってきたん?」 「うん。一応ね」  ぼくは頷いて、こつんとコンクリの地面をボードの端で叩いた。ブレイブボード。地面を蹴らなくても加速できるスケボーで、コツはいるけどぼくの大得意。たけるは歩きだったから、それにあわせてゆっくりきたけれど、本気出せばかなり速く滑れる。 「一応?」 「また、海賊だかが現れたとき、これなら逃げやすいからさ」  久野の問いかけに答えると、久野は少し迷うような仕草をしてから、 「速いのは速いだろうけど、こけたら、危なくない?」 「亜矢子知らんの? 六年の間やとけっこう有名やで? こいつ、めっさボード上手いねんで?」  こけるわけがない、とこーすけが笑う。久野は少し目を丸くして、 「そうなの?」  と問い掛けてきた。ぼくは小さく笑いながら、無言でブイサイン。バスケなら、こーすけと同じくらい……か、こーすけより少しヘタかもしれないけれど、こっちなら負けしらずだ。 「へぇ……」 「そいえば、たけるも来れてんな。大丈夫やったんや?」  赤いセロファンをはった懐中電灯(星座を見に行くときはこういう風にしたほうが、目が暗闇になれるからいいんだ、ってプリントに書いてあった)を、付けたり消したりして遊んでいるたけるに、こーすけが言う。ぼくらは四人で歩きだして(ぼくはボードで滑りだして)、キリン公園へと向かう。 「ひろとがね、作戦してくれたの。ばっちり!」  ぼくの作戦を、たけるが得意げに話す。 「さっすが。おまえ、わりと頭いいよな、ひろと」  こーすけはこう言ったけど久野は面白くなさそうな顔をして、 「頭がいいんじゃなくて、悪知恵が働くだけでしょ」  とかいいやがったけど、そこは無視。  キリン公園へと向かう間、あれ以降『彼女』が出て来なかったか、とか海賊は、とか、そういう話にもなったけれど、実はこれは全くなかった。ちょっと、期待していたんだけどね。  まぁ、いい。その沢山残った謎を解くために、今こうやってキリン公園へ向かっているんだから。  少しして、キリン公園に辿り着く。五番街の端にあるキリン公園は、ぼくとたけるの住んでる十棟のちょうど対極線側にある。角野第二公園からは、並木道一本。街灯が沢山の第二公園と比べて、キリン公園は街灯が一本、ブランコのそばにあるだけだから、薄暗い。ここに来る途中の並木通りも、街灯は少ないから暗かった。  夜のキリン公園。  ぼくらは誰もいないことを確認して、そっと足を踏み入れた。  ほとんど正方形のキリン公園。真ん中あたりに名前の由来のキリン型の滑り台。顔を地面につけた形で、長い首の部分が滑り台になっているんだ。キリンのおしりがあるほうに、ブランコが四つ。ブランコの隣、公園の端に沿うようにシーソーが二つ。  問題の砂場は、キリンの頭が向いている先だ。 「ここやねんな?」 「うん」  昼間放り投げたままだったたけるのスコップが、そのまま残ってある。間違いない。  たけるが落ちていたスコップを握って、砂を掘り始めた。 「えとね、ここ。ここにあったの」  自転車とマウンテン・バイクを止めた久野とこーすけが、たけるのそばによる。 「まだ埋まってる、ってわけじゃないわよね」 「船、やろ? ……船の模型とかプラモとか、そういうんかな?」  久野とこーすけも、そろって砂を掘り始めたけれど、特に収獲はなさそう。ぼくは体を伸ばして見ながら、言う。 「あのさ、砂場とは限らないんじゃない? この付近、って言ってたでしょ。ぼく、ちょっと周り探してきていい?」 「一人で? 危ないわよ」  久野の言葉に、にっと笑ってみせた。胸ポケットを叩く。 「ヘイキ。すぐ戻るし、ぼく鍵持ってるし、なんかあったら『彼女』が出て来るんじゃない?」 「……そう、かもしれないけど。持ってるからこそ余計に――」 「すぐ戻るよ」  何かを言いかけた久野をさえぎって、ぼくはボードを漕いで走り出した。
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