第三章【夏休み】

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 久野の言葉に、ぼくとこーすけは顔を見合わせた。たけるはよく判らないみたいで、きょとんとしている。 「そっか、そうやんな! どっかの惑星に、船作ったやつらがおるわけや。いくらなんでも船が勝手に出来るわけでもないやろ。さっすが亜矢子ちゃーん、かっしこーいっ」 「……だから、黙れ? まぁ、どこかにその星があるんだと思う。たぶん太陽系以外だよね。さすがに、船の中で勝手に生命誕生はないだろうし、久野の言うので、あってると思うけど。――キィ?」  ぼくらは口々に言いあってから、本当はどうなのかをキィに訊ねるために呼びかけた。ところが、鍵は動きを見せないでじっとそこにあるだけだった。  しばらく待ってみても、何も反応しない。ぼくらは顔を見合わせて、目を瞬かせた。久野が、恐る恐るといったようにもう一度キィに呼びかけてみる。 「キィ?」 〝――返答可能〟  唐突に、キィは答えた。そのまま、どこか平坦な口調で続ける。 〝ただ……返答を拒否したい〟  その言葉に、ぼくらはビックリして目を丸くした。 「……答えたくないって、こと?」 〝うん〟  キィが、頷いた。ぼくらはますます訳が判らなくなって、顔を見合わせる。するとキィは、ぼくらの様子を察したように言葉をかけてきた。 〝申し訳ない〟 「い、いや。いいんだけど……」  ぼくはあわててパタパタ手を振った。 「キィ、言いたくないことなの?」  たけるが、鍵に向かって問い掛ける。キィはまた〝うん〟と頷いた。  こーすけは、ぽりぽりと頭をかいて、 「そっか。言いたないんやったら、しゃあないわな」 「……無理に聞き出すのも、あれだしね」  ぼくも、こーすけに同意した。久野も横で困った顔をしながらも同意している。  ただ……ちょっとだけ驚いたんだ。  キィは知ってることなら教えてくれるもんだと思ってたから。  でも、当然といえば当然だ。キィはキィで、ちゃんと感情も何もあるんだから、言いたくないことがあっても、当然のこと。どっちかというと、ビックリしたぼくらのほうがおかしい話だ。 「ごめん、キィ」 〝ううん〟  謝ったぼくに、キィがそう言って、少しだけ静かになる。  何か……ちょっとだけ、キィに悪い気持ち。ぼく、キィの感情とかそういうの、無視してたみたいだ。それは久野も同じように感じたらしく、またキィを質問攻めにしようとはしなかった。ちょっと複雑な顔で、黙り込んでいる。こーすけも考え込むように手で口を覆っているし、たけるも似たようなもんだ。 〝……どうかした?〟  キィが静かになったぼくらに、そう問いかけて来た。ぼくらは一瞬はっとして、自然と下を向いていた顔を上げる。四人で顔を見合わせて、苦笑いをした。 「なんでもないの。ごめんね、キィ」  久野は持ってきた本をかき集めた。ぼくらもイスから立ち上がる。鍵はぼくが持った。 「ほんじゃ、今日はこの後どないする?」  こーすけがそういいながら伸びをした。返却図書のカートに久野が本を戻すのを見てから、図書館の窓から外を見る。  真っ青な空と、白い雲が気持ちよさそうだ。太陽はそろそろ、一日で一番元気になる時間。  ぼくらは自然と答えは決まったぞと顔を見合わせて、にやっと笑った。もちろん、遊びに行こう、だ。  図書館から出るとすぐ、カンカンの真夏の太陽が腕や足や顔を焼く。汗がぶわっと吹きだした。これで、何するか決まった。  こーすけは青い空にぐっとこぶしを突き上げて叫んだ。 「じゃ、いったん家帰って昼ごはん食べたら、水着着てキリン公園集合ー! 海行くでー!」 『おー!』  こうして、ぼくらとキィとの夏休みは始まった。
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