第三章【夏休み】

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 沿岸沿いの道のはずれに、大きなひまわり畑がある。鮮やかな黄色の、大きな花が太陽に向かって首を伸ばしている。  そのひまわり畑の中に入って、ぼくらはそれぞれスーパーウォーターガンをかまえていた。 「っていうか、ね。このチーム分けにはあたしはどうかと思うんだけど」  Tシャツとハーフパンツ姿の久野が、むすっとした表情でぼくらを見る。ぼくとこーすけは顔を見合わせて、肩をすくめた。 「亜矢子ちゃんわがままー。正当なグッパの結果なのに、こーすけくん、泣いちゃう!」 「ああ、こーすけうざい! だいたいグッパだからって、こーすけと片瀬がペアで、あたしとたけるくんがペアじゃ、どう考えたってあたしたちが負けるに決まってるじゃない!」  パー組み久野の主張に、パー組みたけるがきょとんと顔を上げた。二丁拳銃よろしく、両手にもっている水鉄砲を見せて、得意そうな声をあげる。 「たける、負けないよ? がんばるもん!」 「判ってる、でも無理!」  久野はあっさりたけるに言うと、ぼくらにグッパのやり直しを要求してくる。 「っていうかさ。それなら――」  ぼくはTシャツのえりから鍵を引っ張り出した。鍵にひもを通して、首から下げるようにしたんだ。 「キィ」  ぼくが呼びかけると、ひまわり畑は一瞬真っ白な光に覆われる。光と眩しさが青空に溶けたときには、真っ白な姿のキィがそこに立っていた。真夏の太陽の下でも、汗とかは一切かいてない。眩しいほど白い体は、太陽に反射しそうなくらいだ。 「ぼくとこーすけがペア。で、そっちは久野とたける、それからキィがチームでどう? 二対三」 〝わたしが亜矢子たちのチームに入ればいいの?〟 「そ」  久野はしぶしぶといった顔でオーケイして、自分のスーパーウォーターガンをキィに手渡した。久野自身は、たけるの水鉄砲をひとつ借りる。  真夏のひまわり畑での、水鉄砲合戦スタートだ。  青空がひまわりの間から覗く細いあぜ道を、こーすけとぼくは走り出す。  ひまわりを盾にして、スーパーウォーターガンを撃ちまくる。勢い良く飛び出した水が、久野に直撃して、久野が声を上げた。 「一点先取!」 「このっ!」  飛び出してきた久野が、水鉄砲を撃ちまくる。ぼくとこーすけはしゃがんだり、ひまわりを盾にしたりしてその攻撃をかわした。 「へっへー。あたりませんよー、ひ・さ・の・さーん」 「ムカツク! キィ、やっちゃって!」 〝了解〟  久野の言葉に、キィはひまわりの間から姿を出す。チャンス! 「ひろと、やっちまえ!」 「おう!」  こーすけに言われるまでもない。がしゃがしゃっとスーパーウォーターガンのポンプを動かして、キィに照準を合わせた。  ところが。 〝照準設定完了。誤差〇・二。許容範囲内。標的・ひろと。発射〟  バシュン!  キィの撃った水は、ぼくの顔面にきれいにぶちあたった。 「ぶっ!?」 「きゃーっ、キィ、すごい! も一発!」 〝第二派、発射〟  バシュン!  久野のうれしそうな声とともに、ぼくの顔面にまた水がぶちあたる。 「もっと!」 〝発射〟  ビシャン! 「もっと!」 〝発射〟  バシャン! 「キィ、ずっとやっちゃえー!」  ――結局。  ぼくがキィからの一方的な攻撃から解放されたのは、たま切れならぬ、スーパーウォーターガンの水切れになったころだった。  このスーパーウォーターガン、ポンプにはかなりの量の水が入っているわけで。しかもスーパーとかつくもんだから、ポンプは二つついてるわけで。つまり、キィの攻撃がおわった時には、ぼくは全身びしょぬれだった。いやもう、きっぱりありえないほどに。  パンツもくつの中もびしょびしょで、むすっとした表情で立ちつくすぼくをみて、久野とたける、あろうことか同じチームのこーすけも爆笑していやがる。 「なんか……すっげぇ納得いかない……」  見ると、辺りのひまわりにもしぶきが飛んでいて、太陽に反射してきらきらしている。  こーすけがまだ笑いながら、ぴゅうっとスーパーウォーターガンの水を飛ばした。太陽に反射して、虹が見える。 〝任務終了。ゲーム・セット。わたしたちのチームの勝利〟  虹の中で、淡々とした口調でそうつげたキィは、涼しい顔だ。もうそりゃ、あたりまえですよってな顔で。  ぼくは思いっきり肺に空気をためて、大声で叫んだ。 「反則だああー!」
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